IT・システム開発(受託)の資金繰り|人月商売は、なぜ黒字でも金がないのか

業種別の資金繰り
業種別の資金繰り

IT・システム開発(受託)の資金繰り|人月商売は、なぜ黒字でも金がないのか

公開日 2026年7月13日|最終更新 2026年7月13日
監修:黒岩 智之
事業再生コンサルタント/中小企業の資金調達支援18年
元・地方銀行 融資審査部(9年)/相談実績1,200社超
広告(PR)|本記事にはアフィリエイト広告が含まれます。

この記事の結論

  • 受託開発の資金繰りが詰まる理由は、一行で言える。エンジニアの給与は毎月出ていくが、売上が立つのは「検収」が通ってからだ。半年のプロジェクトなら、6か月分の人件費を先に払い切ってから、はじめて請求できる。
  • 逆説がある。受注が増えるほど、資金は苦しくなる。受注が増える=アサインする人が増える=先に出ていく人件費が増える。売上は、まだ立っていない。これは経営の失敗ではなく、人月商売の構造だ。
  • 多重下請け構造(元請 → 一次 → 二次 → 三次)では、下に行くほど支払サイトが長くなり、単価が薄くなる。同じ人月を売っても、二次請けの手元に残る現金は、元請とはまったく違う。
  • 2026年1月1日、取適法(中小受託取引適正化法)が施行された。「情報成果物作成委託」は、その中核だ。手形の交付は禁止。支払期日は受領日から60日以内。従業員基準(情報成果物作成委託等は100人)が追加され、対象が広がった。
  • 受託開発には、明確な売掛金がある。そして売掛先は大手SIer・大企業であることが多い。売掛先の信用力が高いということは、ファクタリングの手数料は低い側に出やすいということだ。高い手数料を提示されたら、その理由を聞いてよい。

エンジニアの給与を払う。

月末に、確実に出ていく。

社会保険料を払う。

翌月末に、確実に出ていく。

そして売上は、まだ1円も立っていない。

半年のプロジェクトなら、6か月分の人件費を先に払い切ってから、ようやく請求書を出せる。

——これが、受託開発の資金繰りだ。

在庫もない。

材料も仕入れない。

工場も要らない。

だから、「装置産業ではないから資金は要らないはずだ」

——そう思われている。

まったく逆だ。

受託開発は、「人」という巨大な仕掛品を抱える商売だ。

エンジニアの給与は、仕掛品への投資である。

そして、その仕掛品が現金に変わるのは、検収が通ったあとだ。

——検収。

この2文字が、受託開発の資金繰りのすべてを決めている。

だから、この記事は検収の話から始める。

そして、誰も書いていない逆説を書く。

受注が増えるほど、資金は苦しくなる。

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘や、投資・法務・税務・会計に関する助言を行うものではありません。会計処理(収益認識・進捗度の見積り等)については、必ず顧問税理士・公認会計士にご確認ください。実際のご契約にあたっては、事前に各社の公式サイトおよび契約書面をご確認いただき、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。掲載している数値・条件は2026年7月時点の公開情報に基づきます。融資・ファクタリングいずれも審査があります。ビジネスローンは貸金業法に基づく貸付けであり、実質年率・遅延損害金・担保の要否は各社の条件によります。取適法の適用の有無は個別取引の実態により判断されます。

01人件費は毎月、売上は検収後|このギャップが全部だ

まず、金の出入りを時間軸に並べる。

この図が、受託開発の資金繰りのすべてだ。

受託開発の資金繰り。プロジェクト期間中に人件費が毎月流出し、検収後に一括で入金されるギャップ 6か月プロジェクト ── 人件費は毎月出て、入金は検収後に一度だけ

1か月目 2か月目 3か月目 4か月目 5か月目 6か月目 検収 入金

▲ 入ってくる金 ── 検収が通ってから、一度だけ 3,000万円

400万 400万 400万 400万 400万 400万 ▼ 出ていく金 ── エンジニアの給与・社会保険料。毎月、確実に

この6か月、売上は1円も立たない。人件費だけが2,400万円出ていく

累計2,400万円を先に払い切って、ようやく請求書を出せる

検収後、支払サイト60日なら、入金はさらに2か月先 ── 資金拘束は約8か月に及ぶ 帳簿は黒字。通帳には金がない。これが受託開発の「黒字倒産」の入口だ

図1:受託開発の資金流出と入金のギャップ。6か月・受注3,000万円・月400万円の人件費という前提の概念図。検収後の支払サイトを含めると、資金拘束は約8か月に及ぶ。

この図の意味は、重い。

6か月間、売上は1円も立たない。

だが、人件費は毎月出ていく。

エンジニア4名をアサインしていれば、給与・社会保険料・交通費・機材費で、月400万円は動く。

6か月で2,400万円。

これを全部自社の金で払い切って、ようやく請求書を出せる。

そして、支払サイトが60日なら、入金は、さらに2か月先だ。

資金拘束は、約8か月。

——製造業なら、材料という目に見える仕掛品がある。

在庫として貸借対照表に立つ。

受託開発の仕掛品は、人だ。

そして、人は給与として毎月出ていく。

これほど資金効率の悪い商売は、そう多くない。

資金繰りが悪化する原因の一般的な分類は資金繰りが悪化する7つの原因|黒字なのに金がない構造で7つに切り分けた。

受託開発は、そのうち「仕掛品長期化型」の最も純粋な形だ。

▶ 数字にすると、どうなるか

エンジニア10名の受託開発会社を考える。
平均年収600万円なら、社会保険料の会社負担を含めた人件費は、1人あたり月およそ58万円(年収の約1.15倍を12で割った概算)。10名で月580万円。ここに家賃・機材・通信・管理部門を乗せると、月700万〜800万円が固定的に出ていく。
半年のプロジェクトを2本、並行で回しているとする。両方とも検収は6か月後。つまり、6か月間で4,200万〜4,800万円を先に払い、その後さらに60日待って入金される。
常時5,000万円前後の運転資金が、通帳に寝ていなければ回らない計算になる。
この5,000万円は、利益ではない。立て替えているだけの金だ。そして、3本目のプロジェクトを取れば、必要な立替はさらに増える。

02検収基準という壁|売上は、いつ立つのか

ここが、この記事で一番書きたいところだ。

受託開発の資金繰りは、「いつ売上が立つか」で決まる。

そして、それを決めるのが収益認識のルールだ。

会計の話に聞こえるだろう。

だが、これは現金の話だ。

——なぜなら、売上が立たなければ、請求書を出せないからだ。

請求書を出せなければ、入金もない。

そして——

ファクタリングも使えない。

売る債権が、存在しないからだ。

ここが、受託開発のいちばん残酷なところだ。

受託開発の収益認識。一時点で充足される履行義務(検収基準)と、一定の期間にわたり充足される履行義務(進捗度による認識)の違い 売上が「いつ」立つかで、資金繰りはまったく変わる

A 一時点で充足される履行義務 = 検収基準(完成基準) 1か月 3か月 6か月 検収→売上計上 検収が通るまで、売上はゼロ 請求書も出せない → 売る債権が、存在しない

B 一定の期間にわたり充足 = 進捗度に応じて認識 売上① 売上② 売上③ 売上④・完了 進行中も、進捗に応じて売上が立つ 契約次第で、期中の請求もできる → 資金繰りは、はるかに楽になる

Bになる要件(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」の考え方) ① 履行につれて、顧客が便益を享受する ② 履行により資産が生じ/価値が増加し、顧客がその資産を支配する ③ 別の用途に転用できない資産が生じ、完了部分について対価を収受する強制力のある権利がある

③の「完了部分について対価を収受する強制力のある権利」── ここが契約書の勝負どころだ 中途解約時に、そこまでの出来高を請求できる条項があるか。それを契約書に入れられるか ※実際の会計処理は個別事情によります。必ず顧問税理士・公認会計士にご確認ください

図2:受託開発の収益認識。一時点で充足される履行義務(検収基準)か、一定の期間にわたり充足される履行義務(進捗度に応じた認識)かで、資金繰りはまったく変わる。実際の判定は個別事情により、会計専門家の判断が必要です。

図の右下に書いた一行を、読んでほしい。

「完了部分について対価を収受する強制力のある権利」

——ここが、契約書の勝負どころだ。

言い換える。

プロジェクトが途中で止まったとき、そこまでの出来高を請求できるか。

この条項が契約書にあるかどうかで、会計上の扱いが変わり得るし、何より、現実に金が入るかどうかが変わる。

——多くの中小受託会社の契約書には、これがない。

「検収をもって本件業務は完了とし、その後に代金を支払う」

これだけだ。

つまり、5か月目にプロジェクトが中止されたら、5か月分の人件費がまるごと消える。

回収不能になる。

——これは、資金繰りの話ではない。

会社が飛ぶかどうかの話だ。

▶ 契約書に、この3行が入っているか

受託開発の資金繰り相談で、私がまず見るのは決算書ではない。契約書だ。そして、次の3点を探す。

  • ①中途解約時の出来高精算条項。「本契約が中途で終了した場合、委託者は、終了日までに受託者が実施した作業に相当する対価を支払う」——この一文があるか。ないなら、5か月目の中止で5か月分が消える
  • ②中間金(マイルストーン払い)の設定。要件定義完了時に30%、基本設計完了時に30%、検収時に40%。こう分割できていれば、資金拘束は劇的に軽くなる。これは交渉可能な項目だ
  • ③検収の基準と期限。「検収」が何をもって完了するのか、そしていつまでに検収の可否を通知するのかが書かれているか。「検収がいつまでも通らない」は、実務で最も多いトラブルだ。取適法は、受領を不当に拒むこと(受領拒否)を禁止している

この3つは、資金調達を検討する前に、契約書で確保すべきものだ。中間金が取れれば、そもそも借りる必要が減る。最も安い資金調達は、契約条件の交渉である。コストはゼロだ。

契約条件が資金繰りにどう効くのかを、表にする。

同じ3,000万円のプロジェクトでも、契約の書き方で必要な運転資金がまるで変わる。

← 横にスクロールできます →

契約条件 入金のタイミング ピーク時の立替額 資金拘束の期間
A 一括検収払い(中間金なし) 検収後(6か月目)+支払サイト60日 約2,400万円(6か月分の人件費) 約8か月
B 中間金1回(要件定義完了時に30%) 2か月目に900万円/検収後に2,100万円 約1,500万円 約8か月(ただし途中で現金が入る)
C マイルストーン払い(30%・30%・40%) 2か月目/4か月目/検収後 約800万円 最長でも約4か月
D 月次の出来高払い(準委任・工数精算) 毎月、当月分を翌月請求 約400〜800万円(1〜2か月分) 約2か月
※3,000万円・6か月・月400万円の人件費という前提での概算例示です。実際の必要額は、契約内容・支払サイト・要員計画により異なります。契約形態(請負・準委任)や収益認識の会計処理については、必ず顧問税理士・公認会計士にご確認ください。
▶ この表が言っていること

AとDでは、必要な運転資金が3倍から6倍違う。同じ3,000万円の仕事なのに、だ。
そして——AからDへの移行は、資金調達ではない。契約交渉だ。手数料も金利もかからない。

  • 「一括検収払い」を、当たり前だと思わない。それは交渉の結果であって、業界の掟ではない
  • 中間金を1回入れるだけで、ピークの立替額は大きく下がる。「要件定義完了時に30%」——この一言から始める
  • 準委任(工数精算)にできる案件は、そうする。月次で請求できれば、資金拘束は2か月で済む

資金調達の見積もりを取る前に、まず契約書を見てほしい。そこに、最も安い資金調達手段が眠っている。

03逆説|受注が増えるほど、資金は苦しくなる

ここは、受託開発の経営者がいちばん苦しむところだ。

大型案件が取れた。みんなで喜んだ。

その3か月後、資金が詰まる。

——なぜか。

もう分かるはずだ。

受注が増える= アサインする人が増える= 先に出る人件費が増える

そして売上は、まだ立っていない。

図にする。

受託開発の逆説。受注が増えるほど先行する人件費が増え、資金が枯渇する 受注が増えるほど、手元の現金は減る ── 人月商売の逆説

大型案件を受注した 1億円・12か月・エンジニア8名

エンジニアをアサインする/足りなければ採用する

給与・社会保険料が、翌月から毎月出ていく(月800万円)

検収は12か月後。それまで売上はゼロ。入金もゼロ 12か月 × 800万円 = 9,600万円を、先に払い切る必要がある

1億円の受注は、9,600万円の「先払い」とセットで来る 中間金がなければ、受注した瞬間に、会社は1億円近い立替を背負っている

図3:受託開発の逆説。1億円・12か月・8名という案件は、月800万円・累計9,600万円の先払いとセットで来る。中間金がなければ、受注が資金繰りを直撃する。

この図を見て、背筋が寒くなった人がいるはずだ。

1億円の受注は、9,600万円の先払いとセットで来る。

——中間金がなければ、受注した瞬間に、会社は1億円近い立替を背負っている。

これは、投資だ。

だが、多くの経営者はこれを「売上」だと思っている。

受注は、売上ではない。

受注は、先行投資の意思決定だ。

——だから、私は必ずこう聞く。

「その案件のために、何円を、何か月間、立て替えますか」

答えられないなら、まだ受注してはいけない。

13週の資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方|13週キャッシュフロー予測で「いつ詰まるか」を先に知るに書いた。

受託開発こそ、週次の資金繰り表が要る業種だ。

——プロジェクトのアサイン計画と、資金繰り表を同じ画面で見る。

これができている会社は、資金で死なない。

▶ 大型受注を「取ってよいか」の判断基準

受注は、無条件に善ではない。受注可否は、資金で決めるべき場面がある。次の3つを計算してから判断してほしい。

  • ①ピーク時の立替額。案件期間中に、累計でいくら立て替えるか。中間金があるなら、それを引く。この金額が、手元資金+既存の借入枠を超えるなら、受注する前に調達の目処をつける
  • ②その案件の粗利率。人月単価 − 人件費原価。粗利率が20%を切るなら、資金を9か月間拘束してまでやる価値があるか、疑ってよい
  • ③中止・遅延したときの損失。中途解約時の出来高精算条項がないなら、最悪ケースは「立替額の全損」だ。それに耐えられるか

そして、①が大きいなら、中間金を交渉する。「要件定義完了時に30%」——この一言が通れば、立替額は劇的に減る。金利ゼロ・手数料ゼロの資金調達だ。

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04多重下請け構造|下に行くほど、サイトは長くなる

受託開発には、階層がある。

発注元(エンドユーザー)

↓ 元請(大手システムインテグレーター)

↓ 一次請け

↓ 二次請け

↓ 三次請け

——建設業と同じ構造だ。

そして、建設業と同じように、下に行くほど、単価が薄くなり、支払サイトが長くなる。

図にする。

受託開発の多重下請け構造。階層が下がるほど単価が薄くなり、支払サイトが長くなる 多重下請け ── 下に行くほど、薄くなり、遅くなる

発注元

元請(大手) 人月単価 150万円 サイト 30〜45日

一次請け 人月単価 110万円 サイト 45〜60日

二次請け 人月単価 80万円 サイト 60〜90日

三次請け 人月単価 60万円 サイト 90日〜

薄く、遅く

同じエンジニア1名を1か月出しても、階層が違えば手元に残る現金がまるで違う 単価は薄く、入金は遅い。給与は、階層に関係なく毎月出ていく

2026年1月・取適法 ── 支払期日は受領日から60日以内/手形の交付は禁止 対象取引であれば、この「下に行くほど遅くなる」構造に、法律が介入する

図4:受託開発の多重下請け構造の概念図。人月単価・支払サイトの数値は、構造を説明するための例示であり、実際の条件は取引ごとに異なります。

図の中の数字そのものは、説明のための例示だ。

だが、構造は現場のとおりだ。

同じエンジニア1名を1か月出しても、階層が違えば、手元に残る現金がまるで違う。

単価は薄く、入金は遅い。

そして——

給与は、階層に関係なく、毎月同じだけ出ていく。

これが、二次請け・三次請けの資金繰りが構造的に苦しい理由だ。

——ここに、2026年、法律が介入した。

05取適法(2026年1月)は情報成果物作成委託を規律する

2026年1月1日、取適法(中小受託取引適正化法)が施行された。

下請法を改正し、名称も変えたものだ。

そして——

「情報成果物作成委託」は、この法律の中核にある。

プログラム、システム、設計書。

これらの作成を委託する取引は、情報成果物作成委託にあたる。

つまり、受託開発は取適法のど真ん中にいる。

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取適法のポイント 内容 受託開発への効き方
手形の交付が禁止 手形での支払いは禁止行為。電子記録債権・一括決済方式のうち、支払期日までに満額の金銭と引き換えることが困難なものも禁止 受託開発では手形は多くないが、実質的に長サイトの決済手段を押しつけられている場合に効く
支払期日は受領日から60日以内 給付を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内で定める義務 ここが最大の効き目。「うちは90日サイト」は、対象取引では通らなくなった
受領拒否の禁止 中小受託事業者に責任がないのに、給付の受領を拒むことの禁止 「検収がいつまでも通らない」問題に効く。売上が立たない=請求できない、を防ぐ
返品の禁止/不当な給付内容の変更・やり直しの禁止 責任がないのに、給付をやり直させることの禁止 仕様変更を無償で飲まされる問題に効く。タダ働きは、先行する人件費そのものだ
価格協議に応じない一方的な代金決定の禁止 協議を求められたのに応じず、一方的に代金を決めることの禁止 人月単価の値上げ交渉が、法律に支えられる
適用対象の拡大 資本金基準に加え、従業員基準を追加。情報成果物作成委託・役務提供委託等は常時使用する従業員100人が基準。資本金基準・従業員基準のいずれかを満たせば対象 資本金が小さい発注元も、従業員100人超なら対象になり得る
罰則 勧告・指導のほか、50万円以下の罰金 公正取引委員会・中小企業庁に相談窓口がある
※取適法(中小受託取引適正化法。2026年1月1日施行)の内容は、公正取引委員会の公表資料に基づきます。適用の有無は個別取引の実態により判断されるため、自社の取引が対象かどうかは、公正取引委員会・中小企業庁の公表資料および相談窓口でご確認ください。名称も変更されており、親事業者は「委託事業者」、下請事業者は「中小受託事業者」になりました。

表のなかで、受託開発にいちばん効くのは「受領拒否の禁止」だ。

——現場の言葉に翻訳する。

「検収が、いつまでも通らない」

これだ。

納品した。

だが、先方の担当者が忙しくて見てくれない。

あるいは、先方の都合で検収が翌四半期にずらされる。

その間、売上は立たない。

請求書も出せない。

そして、エンジニアの給与は出ていき続ける。

——これが、受託開発の資金繰りを殺す典型的なパターンだ。

取適法は、中小受託事業者に責任がないのに給付の受領を拒むことを禁止している。

「検収してもらえない」は、2026年から、法律の問題になった。

——そして「支払期日は受領日から60日以内」。

これが多重下請けの最下層に効く。

二次請け・三次請けが90日サイトを飲まされる構造は、対象取引であれば、もう通らない。

建設業の多重下請けと資金繰りの関係は建設業の資金繰り|工事代金の入金は完成後、材料と人工は先払いで書いた。

構造は、まったく同じだ。

そして製造業では、この取適法が手形という慣行そのものを終わらせようとしている。

製造業の資金繰り|材料は先払い、入金は手形。この構造が変わるで、紙の約束手形の廃止(2027年3月末)まで含めて整理した。

▶ 「検収が通らない」ときの、実務の順序
  • ①納品の事実を、記録に残す。納品物、納品日時、納品方法。メールで送り、相手の受領確認を取る。口頭とチャットだけで済ませない
  • ②契約書の検収条項を確認する。「検収期間は納品後◯営業日以内」と書かれているか。書かれていて、その期間を過ぎているなら、契約上の根拠がある
  • ③書面(メール)で、検収の可否の通知を求める。喧嘩ではない。「検収期間が経過しておりますので、可否のご通知をお願いいたします」。記録に残す
  • ④取適法の適用対象かを確認する。対象であれば、中小受託事業者に責任がないのに受領を拒むことは禁止されている
  • ⑤公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口を使う。下請取引に関する相談窓口があり、匿名での情報提供も受け付けている

そして、次の契約からは「検収期限」を必ず入れる。「納品後10営業日以内に検収の可否を通知する。通知がない場合は検収されたものとみなす」——このみなし条項があるかどうかで、資金繰りの安定性がまったく変わる。

06ソフトウェア業の倒産|過去10年で最多ペース

数字を見る。

この業界は、好況だと言われている。

人手不足で、単価は上がっている。

なのに、倒産は増えている。

——矛盾ではない。

構造の帰結だ。

ソフトウェア業・情報通信業の倒産データ。好況にもかかわらず倒産が増えている 好況なのに、倒産は増えている ── ソフトウェア業の矛盾

ソフトウェア業の倒産(2025年度・2月末時点) 195件 過去10年で最多だった2024年度と並ぶペース

情報通信業の倒産(2024年) 425件 前年比+21.7%/11年ぶりに年間400件超

倒産の負債規模(情報通信業・2024年) 1億円未満が 約84.6% 倒れているのは、小規模の受託会社だ

情報サービス業の人手不足(2026年1月) 正社員 69.2% 全業種でトップクラスの不足感

情報サービス業の月の所定内給与(2025年平均) 38万3,755円(前年比+2.5%) 全業種平均 26万7,532円を大きく上回る ── 人件費は上がり続けている

人件費は先に上がる。単価の転嫁は、後からしか効かない この時間差が、多重下請けの下位ほど致命的になる/出典:帝国データバンク・東京商工リサーチ

図5:ソフトウェア業・情報通信業の倒産データ。人手不足で給与は上がるが、単価の転嫁は遅れる。この時間差が、下位の受託会社を直撃する。出典:帝国データバンク「ソフトウェア業の倒産動向(2025年度、2月末時点)」、東京商工リサーチ「情報通信業の倒産」。

この矛盾の中身を、現場の言葉に翻訳する。

エンジニアの給与は、先に上がった。

採用市場が過熱し、引き止めるために賃金を上げた。

それは、翌月から出ていく。

一方、人月単価の値上げは、既存契約ではすぐには効かない。

次の契約更新まで、待たされる。

——この「人件費は先に、単価は後から」という時間差が、下位の受託会社を殺している。

負債1億円未満が約84.6%。

倒れているのは、小規模の受託会社だ。

倒産データの全体像は2026年上半期の倒産データ|物価高・人手不足・後継者難が過去最多で、主因別・規模別に分解した。

——ここでも、取適法が効く。

価格協議に応じない一方的な代金決定は、禁止された。

「エンジニアの給与が上がったので、人月単価の協議をお願いしたい」

その申し入れを、委託事業者は無視できなくなった。

2026年は、その交渉をする年だ。

07売掛先が大手SIer=手数料は低くなるはずだ

ここは、この記事でいちばん実利のある章だ。

受託開発の売掛先は、誰か。

大手システムインテグレーター(大手SIer)。

大企業の情報システム部門。

上場企業。

——多くの場合、日本で最も信用力の高い部類の企業だ。

そして、ファクタリングの審査は売掛先の信用力が中心になる。

ということは——

受託開発会社のファクタリング手数料は、本来、低い側に出るはずだ。

これは、交渉のカードになる。

ファクタリングの手数料が何で決まるか。売掛先の信用力・支払サイト・2社間か3社間か ファクタリングの手数料は、何で決まるのか

審査で見られているのは「自社」ではなく「売掛先」の信用力だ

① 売掛先の信用力 上場企業・大手SIer 回収不能リスクが低い → 手数料は低い側へ

② 支払サイト 短いほど、業者が 資金を寝かせる期間が短い 取適法で60日以内に → 手数料は低い側へ

③ 2社間か、3社間か 3社間は売掛先に 通知・承諾を得る 業者のリスクが下がる → 手数料は低い側へ

受託開発は、この3つすべてで有利な側に立てる業種だ 売掛先は大企業、検収済みで金額が確定、通帳に継続入金の履歴がある

それでも高い手数料を提示されたら、理由を聞いてよい 「売掛先が上場企業で、検収済みで、入金履歴もある。なぜこの手数料なのですか」 この質問に答えられない業者は、避けたほうがよい

図6:ファクタリングの手数料を決める3要素。受託開発は、そのすべてで有利な側に立てる業種。実際の手数料は、債権額・支払サイト・売掛先の信用力・契約形態により変動し、審査があります。

この図の一番下を、もう一度読んでほしい。

「売掛先が上場企業で、検収済みで、入金履歴もある。なぜ、この手数料なのですか」

——この質問をしてよい。

してほしい。

答えられない業者は、避けたほうがよい。

そして、2社間と3社間の違いを理解しておく。

3社間は、売掛先に通知・承諾を得る。

業者のリスクが下がるので、手数料も下がりやすい。

だが——

売掛先に知られる。

大手システムインテグレーターが取引先で、「資金繰りが苦しいのか」と思われることを恐れる。

その恐れは、正当だ。

私は、綺麗事を言わない。

3社間は、安いが、知られる。

2社間は、知られないが、高い。

——このトレードオフをどう判断するかは、2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの違い|手数料・通知・登記で比較に詳しく書いた。

債権譲渡登記を求められるかどうかも、ここで整理している。

そして手数料の相場観はファクタリング手数料の相場と実質年率換算表|支払サイト別マトリクスで、支払サイト別のマトリクスにした。

「5%は高いのか、安いのか」

支払サイトが分からなければ、その質問には答えられない。

表を見てから交渉してほしい。

08受託開発の資金調達|借りるか、売るか

整理する。

受託開発の資金需要は、タイミングで3つに分かれる。

そして、それぞれに使える手段が違う。

ここを間違えると、「使えるはずのものが使えない」ことになる。

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タイミング 状態 使える手段 使えない手段
受注前・受注直後 売上ゼロ・債権ゼロ。人件費だけが出ていく 公庫・保証協会付き融資/銀行の当座貸越/ビジネスローン/中間金の交渉 ファクタリング(売る債権が存在しない)
プロジェクト進行中 仕掛品(人件費)が積み上がる。検収前で請求できない 融資(運転資金)/注文書ファクタリング(発注書段階で買い取る仕組み。取扱いは限られる) 通常の請求書ファクタリング
検収後・請求後 売掛金が確定。支払サイトを待つだけ ファクタリング(ここが本領)/短期のつなぎ融資
入金後 現金化完了 次のプロジェクトの原資になる
※ファクタリングは、原則として「既に発生している売掛債権」を対象とします。検収前・請求前の段階では、売却できる債権が存在しないため、利用できないのが原則です。注文書(発注書)の段階で買い取る仕組みを扱う会社もありますが、取扱いは限られ、条件も異なります。いずれも審査があります。

表の一番上の行が、受託開発のいちばん苦しいところだ。

プロジェクトが始まったばかりのときが、いちばん金が要る。

なのに、そのときがいちばん手段が少ない。

——売る債権が、存在しないからだ。

だから、こう考える。

①まず、中間金を交渉する

要件定義完了時に30%。

この一言が通れば、立替額は劇的に減る。

コストはゼロだ。

②次に、融資の枠を「使う前に」確保する

当座貸越の枠、公庫の運転資金。

金が要る前に、枠だけ作っておく。

——これが、受託開発でいちばん重要な資金戦略だ。

③検収が通ったら、必要に応じてファクタリングを使う

ここで、はじめて売る債権が生まれる。

公的融資の全体像はノンバンクの前に使うべき公的支援|セーフティネット貸付・保証協会・納税の猶予で制度ごとに整理した。

日本政策金融公庫の国民生活事業は、2026年7月時点で無担保 年3.50%〜5.20%。

時間はかかる。

だから、金が要る前に動いてほしい。

そして、注文書の段階で資金化する仕組みについては注文書ファクタリング(発注書買取)|請求書がなくても資金化できるのかに書いた。

取扱う会社は限られ、条件も違う。

「使える」と断定はできない。

だが、選択肢としては知っておいてよい。

09一人親方のエンジニア・小規模受託の場合

フリーランスのエンジニア。

法人化していない、個人事業主。

ここは、条件がまるで違う。

まず、ビジネスローンの多くは「法人のみ」だ。

アクト・ウィルもエーストラストも、法人のみを対象としている(2026年7月時点の公表値)。

個人事業主は、申し込めない。

——では、ファクタリングはどうか。

個人事業主に対応する会社は、ある。

ただし、決定的な制約が1つある。

個人事業主は、債権譲渡登記ができない。

動産債権譲渡特例法が、譲渡人を法人に限定しているからだ。

これは、どの記事にも書かれていない事実だ。

——業者から見れば、登記による対抗要件を備えられないということだ。

つまり、二重譲渡のリスクを負う。

だから、取扱いを断る会社があるし、手数料が高くなる会社もある。

これは、差別ではない。

法制度の帰結だ。

個人事業主・フリーランスの資金調達については個人事業主・フリーランスのファクタリング|債権譲渡登記ができない問題で、この論点を正面から扱った。

最初に検討すべきは、日本政策金融公庫だ。

そして、フリーランス保護新法(2024年11月施行)と取適法の関係も、確認しておいてよい。

1人で受託しているエンジニアも、「中小受託事業者」になり得る。

▶ 個人事業主のエンジニアが、最初にやるべきこと
  • ①日本政策金融公庫に相談する。国民生活事業の基準利率は、2026年7月時点で無担保 年3.50%〜5.20%。ファクタリングとは、コストの桁が違う。時間はかかるが、時間があるなら、まずここだ
  • ②青色申告と、確定申告書一式を整える。公庫もファクタリング会社も、これを見る。「確定申告をしていない」は、そこで話が終わる
  • ③事業用の口座を分ける。生活費と事業の入出金が同じ口座だと、通帳を見せたときに事業の実態が伝わらない
  • ④総量規制の扱いを、正しく理解する。個人事業主の事業性資金は、貸金業法の「例外貸付け」にあたる。「除外」ではなく「例外」だ。借入残高には算入される。ここを間違えて説明している記事が非常に多い

そして、法人化を検討する。債権譲渡登記ができる、ビジネスローンの選択肢が増える、取引先の与信が通りやすくなる。資金調達の観点だけで言えば、法人化のメリットは小さくない。ただし、税務・社会保険の負担は変わるため、必ず税理士に相談してください。

10資金調達サービスの条件比較

条件を並べる。

2026年7月時点の各社公表値だ。

「記載なし」の項目は、推測で埋めない。

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項目 QuQuMo online(ファクタリング) 株式会社No.1(ファクタリング) アクト・ウィル(ビジネスローン)
種別 債権譲渡(民法466条) 債権譲渡(民法466条) 貸金業法に基づく貸付け
コスト 1%〜(上限の記載なし) 買取手数料 0.5%〜15% 実質年率 年3.00%〜年15.00%
遅延損害金 —(返済ではないため発生しない) —(同左) 年20.00%
金額 上限なし(下限の記載もなし) 50万円〜3億円 300万円〜1億円
速さ 最短2時間で入金 最短30分で振込 審査最短60分・即日融資に対応
対象 法人・個人事業主とも可 事業者(法人・個人の別は記載なし) 法人のみ
オンライン完結 完全オンライン完結・面談不要(クラウドサインによる電子契約) 電子契約に対応・全国対応(ヒアリングあり) 不可(チャットボット申込+ファクシミリ・郵送)
必要書類 請求書・通帳の2点のみ(+代表者本人確認書類。入出金明細は直近3か月分。個人事業主は開業届または確定申告書一式+健康保険証) 各社サイトでご確認ください 代表者本人確認書類・決算報告書の一部(損益計算書、売掛金/買掛金内訳書)
償還請求権 なし(ノンリコース)と明記 なし(ノンリコース)と明記 —(貸付けのため概念が異なる)
登録番号 —(貸金業者ではない) —(貸金業者ではない) 東京都知事(5)第31521号
向いている場面 検収後の請求書を、面談なしで速やかに資金化したい 大口(〜3億円)の売掛金を資金化したい プロジェクト進行中の人件費など、債権がまだ立っていない局面
※2026年7月時点の各社公表値です。いずれも審査があります。QuQuMo online(株式会社アクティブサポート)の手数料は「1%〜」と表示されていますが、上限の記載がありません。実際の手数料は、債権額・支払サイト・売掛先の信用力により変動します。ビジネスローンの「即日融資」「審査最短60分」は、お申込み時間帯・審査状況により、翌営業日以降となる場合があります。アクト・ウィル株式会社の貸金業登録は、金融庁の「登録貸金業者情報検索サービス」で照合できます。No.1の「審査通過率95%以上(2026年4月現在)」は同社の公表値であり、第三者による検証は行われていません。ファクタリングの手数料は金利ではなく、債権売買の対価であるため、両者を単純に並べて「どちらが安いか」を比較することはできません。

借りるか、売るか。

その判断の物差しはファクタリングとビジネスローンの違い|同じ100万円でも、コストは10倍変わるにまとめた。

同じ100万円を同じ30日だけ使うとき、コストが円単位でいくら違うか。

そこを見てから決めてほしい。

そして、契約書のどこを見るか。

買戻特約、表明保証、公正証書。

これらが出てきたときに何が起きるかはファクタリング会社の選び方|悪質業者を見抜く15のチェックリストに書いた。

見積もりを取る前に、読んでほしい。

請求書と通帳の2点だけ・完全オンライン完結|QuQuMo online
検収が通った請求書を、面談なしで資金化する。必要書類は請求書・通帳の2点のみ(+代表者本人確認書類)。クラウドサインによる電子契約で、来店も面談も不要。最短2時間で入金。法人・個人事業主のどちらも対象。フリーランスのエンジニアや、少人数の受託開発会社に向く。償還請求権なし(ノンリコース)と明記。
手数料 1%〜最短2時間入金請求書+通帳の2点完全オンライン個人事業主も可

オンラインで無料査定を受ける

※2026年7月時点の同社公表値です。手数料は「1%〜」と表示されていますが、上限の記載はありません。実際の手数料は、債権額・支払サイト・売掛先の信用力により変動し、審査があります。お申込み時間帯・審査状況により、入金が翌営業日以降となる場合があります。ファクタリングは法的には債権譲渡(民法466条)であり、貸付けではありません。手数料は金利ではなく、債権売買の対価です。金融庁は、経済的に貸付けと同様の機能を有するものは貸金業に該当するおそれがあるとしています。契約前に、償還請求権・買戻特約の有無を契約書でご確認ください。

FAQよくある質問

検収前のプロジェクトを、ファクタリングで資金化できますか。
原則として、できません。ファクタリングは「既に発生している売掛債権」を売買する取引だからです。検収が通っておらず、請求書も発行していない段階では、売却する債権そのものが存在しません。
ここが、受託開発の資金繰りで最も苦しいところです。プロジェクトが始まったばかりのときが最も現金を必要とするのに、そのときが最も手段が少ない。
この局面で使えるのは、①中間金(マイルストーン払い)の交渉、②融資(日本政策金融公庫・信用保証協会付き融資・銀行の当座貸越・ビジネスローン)です。
なお、注文書(発注書)の段階で買い取る仕組みを扱う会社もありますが、取扱いは限られ、条件も通常のファクタリングとは異なります。「使える」と断定はできません。
最も現実的で、最もコストが安いのは中間金の交渉です。「要件定義完了時に30%」——この一言が通れば、立替額は劇的に減ります。手数料も金利もかかりません。
売掛先が大手SIerです。ファクタリングの手数料は安くなりますか。
条件としては、有利な側に立てます。ただし「安くなります」と断定はできません。実際の手数料は、債権額・支払サイト・売掛先の信用力・2社間か3社間か・各社の審査基準によって変動するためです。
そのうえで、判断の材料を示します。ファクタリングの審査は、売掛先(発注元)の信用力が中心になります。自社の財務内容ではありません。ここが融資との決定的な違いです。
売掛先が上場企業や大手システムインテグレーターであれば、業者が負う回収不能リスクは小さくなります。さらに、検収が完了して請求書が発行済みであれば債権額が確定しており、通帳に継続的な入金履歴があれば取引の実在性も確認できます。受託開発は、この3つをすべて満たしやすい業種です。
したがって、見積もりで高い手数料を提示されたら、その理由を聞いてよいと考えます。「売掛先が上場企業で、検収済みで、入金履歴もあります。なぜこの手数料になるのですか」。この質問に納得できる説明ができない業者は、避けたほうがよいでしょう。
複数社から相見積もりを取ることも有効です。
検収がいつまでも通りません。売上が立たず、資金繰りが苦しいです。
まず、事実関係を記録に残してください。納品物・納品日時・納品方法、そして相手からの受領確認。メールで送り、記録が残る形にします。
次に、契約書の検収条項を確認します。「検収期間は納品後◯営業日以内」と書かれていて、その期間を過ぎているなら、契約上の根拠があります。書面またはメールで、検収の可否の通知を求めてください。
そして、2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法)です。取適法は、中小受託事業者に責任がないのに給付の受領を拒むこと(受領拒否)を禁止しています。「検収してもらえない」は、対象取引であれば、法律の問題になります。
適用の有無は、資本金基準または従業員基準(情報成果物作成委託等は常時使用する従業員100人)のいずれかを満たすかで判断されます。詳細は公正取引委員会の公表資料をご確認ください。公正取引委員会・中小企業庁には下請取引の相談窓口があり、匿名での情報提供も受け付けています。
そして、次の契約からは「検収期限のみなし条項」を入れてください。「納品後10営業日以内に検収の可否を通知する。通知がない場合は検収されたものとみなす」。この一文の有無で、資金繰りの安定性がまったく変わります。
受注が増えたのに、資金が足りません。経営が悪いのでしょうか。
経営が悪いとは限りません。これは人月商売の構造的な現象です。
仕組みはこうです。受注が増える → エンジニアをアサインする(足りなければ採用する) → 給与・社会保険料が翌月から毎月出ていく → しかし売上が立つのは検収後 → 入金はさらに支払サイトの後。
つまり、受注は「売上」ではなく「先行投資の意思決定」です。1億円・12か月・8名の案件を取ったなら、それは9,600万円(月800万円×12か月)の先払いとセットで来ます。
この状態を「経営が悪い」と自己評価すると、判断を誤ります。必要なのは、受注する前に「何円を、何か月間、立て替えるのか」を計算することです。
そして、対策は3つあります。①中間金(マイルストーン払い)を交渉する、②金が要る前に融資の枠を確保しておく、③検収後の請求書は、必要に応じてファクタリングで資金化する。
金融機関も、増加運転資金の考え方は理解しています。受注が増えているという事実は、融資の場面で説明材料になります。決算書・受注残・資金繰り表を持って、取引銀行に相談してください。ただし、融資には審査があります。
取適法(2026年1月施行)は、受託開発にどう効きますか。
受託開発は、取適法の「情報成果物作成委託」にあたる典型的な取引です。プログラム、システム、設計書の作成を委託する取引が、これに該当します。主な効き目は5つです。
支払期日は、給付を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内で定めることが義務づけられました。多重下請けの下位ほど支払サイトが長くなる構造に、法律が介入します。
手形の交付が禁止されました。電子記録債権や一括決済方式であっても、支払期日までに満額の金銭と引き換えることが困難なものは、同様に禁止の対象です。
受領拒否の禁止。「検収が通らない」問題に効きます。
不当な給付内容の変更・やり直しの禁止。仕様変更を無償で飲まされる問題に効きます。タダ働きは、先行する人件費そのものです。
価格協議に応じない一方的な代金決定の禁止。人月単価の値上げ交渉が、法律に支えられます。
適用対象は、資本金基準に加えて従業員基準(情報成果物作成委託等は常時使用する従業員100人)が追加され、拡大しました。いずれかの基準を満たせば対象になります。詳細は公正取引委員会の公表資料をご確認ください。罰則は、勧告・指導のほか50万円以下の罰金です。
フリーランスのエンジニア(個人事業主)でも、資金調達はできますか。
できる手段と、できない手段があります。
ビジネスローンの多くは「法人のみ」を対象としており、個人事業主は申し込めません。アクト・ウィルもエーストラストも、法人のみを対象としています(2026年7月時点の公表値)。
一方、ファクタリングは、個人事業主に対応している会社があります。QuQuMo online は、法人・個人事業主のどちらも対象としており、必要書類は請求書・通帳の2点(+代表者本人確認書類。個人事業主は開業届または確定申告書一式+健康保険証)です。
ただし、重要な制約が1つあります。個人事業主は、債権譲渡登記ができません。動産債権譲渡特例法が、譲渡人を法人に限定しているためです。業者から見ると登記による対抗要件を備えられないため、取扱いを断る会社や、手数料が高くなる会社があります。これは差別ではなく、法制度の帰結です。
最初に検討すべきは、日本政策金融公庫です。国民生活事業の基準利率は、2026年7月時点で無担保 年3.50%〜5.20%。コストの桁が違います。時間はかかりますが、時間があるなら、そちらが先です。
なお、個人事業主の事業性資金は、貸金業法の「例外貸付け」にあたります。「除外」ではなく「例外」であるため、借入残高には算入されます。この点を誤って説明している記事が多いので、注意してください。

まとめ

受託開発の資金繰りは、一行で説明できる。

エンジニアの給与は毎月出る。売上は、検収後にしか立たない。

半年のプロジェクトなら、6か月分の人件費を先に払い切ってから、ようやく請求書を出せる。

支払サイトを含めれば、資金拘束は8か月に及ぶ。

——在庫はない。

材料も仕入れない。

だが、受託開発は「人」という巨大な仕掛品を抱える商売だ。

そして、逆説がある。

受注が増えるほど、資金は苦しくなる。

1億円の受注は、9,600万円の先払いとセットで来る。

受注は、売上ではない。

受注は、先行投資の意思決定だ。

——だから、順序がある。

①中間金を交渉する。

要件定義完了時に30%。コストはゼロだ。

②金が要る前に、融資の枠を確保する。

公庫も保証協会も、時間がかかる。

③検収後の請求書は、必要に応じて資金化する。

ここで、はじめて売る債権が生まれる。

——そして、2026年1月。

取適法が施行された。

情報成果物作成委託は、この法律の中核だ。

支払期日は、受領日から60日以内。

手形の交付は、禁止。

受領拒否も、禁止。

不当なやり直しも、禁止。

価格協議に応じない一方的な代金決定も、禁止。

「検収が通らない」も、「90日サイト」も、「仕様変更のタダ働き」も、2026年から法律の問題になった。

——最後に、ひとつ。

受託開発の売掛先は、大手システムインテグレーターや大企業であることが多い。

日本で最も信用力の高い部類の企業だ。

ファクタリングの審査は、売掛先の信用力が中心になる。

つまり、あなたの手数料は、本来、低い側に出るはずだ。

高い手数料を提示されたら、理由を聞いてよい。

それは、あなたの権利だ。

出典・参考
公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」リーフレット
中小企業庁「2026年1月施行!〜下請法は取適法へ〜 改正ポイント説明会」資料
帝国データバンク「『ソフトウェア業』の倒産動向(2025年度、2月末時点)」
東京商工リサーチ「『情報通信業』の倒産 11年ぶり400件超」
帝国データバンク「倒産集計 2026年上半期報(1月〜6月)」
金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」
金融庁「登録貸金業者情報検索サービス」
e-Gov 法令検索「貸金業法」
日本政策金融公庫「金利情報」
中小企業庁
・企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準委員会)

相談窓口
金融庁 金融サービス利用者相談室:0570-016811/日本貸金業協会 貸金業相談・紛争解決センター:0570-051051/警察相談専用電話:#9110/消費者ホットライン:188

監修:黒岩 智之(くろいわ ともゆき)
事業再生コンサルタント/中小企業の資金調達支援18年。地方銀行の融資審査部に9年在籍後、独立。これまで1,200社超の資金繰り相談に対応。建設・製造・運送・医療介護分野の資金調達を専門とする。

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