介護事業者の資金繰り|訪問介護の倒産が過去最多になった、本当の理由

業種別の資金繰り
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介護事業者の資金繰り|訪問介護の倒産が過去最多になった、本当の理由

公開日 2026年7月13日|最終更新 2026年7月13日
監修:黒岩 智之
事業再生コンサルタント/中小企業の資金調達支援18年
元・地方銀行 融資審査部(9年)/相談実績1,200社超
広告(PR)|本記事にはアフィリエイト広告が含まれます。

この記事の結論

  • 2025年の介護事業者の倒産は176件で、2年連続の過去最多だった。だが、注目すべきは総数ではなく内訳だ。
  • 訪問介護91件(3年連続で過去最多)。一方、通所・短期入所は45件で前年比▲19.6%と減っている。有料老人ホームは16件。介護業界全体が沈んでいるのではない。訪問介護だけが、突出して沈んでいる。
  • なぜ訪問介護だけなのか。理由は3つ重なっている。①2024年度介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が引き下げられた ②ヘルパーの高齢化と人手不足 ③移動時間とガソリン代が、報酬に反映されにくい
  • 2026年度は、介護報酬の改定年ではない。直近の改定は2024年度、次は2027年度の医療・介護同時改定だ。つまり報酬は当面動かない。その前提で資金繰りを設計する必要がある。
  • 介護報酬も、国保連を経由して約2か月後に入金される。人件費は毎月末に出る。売上の8割前後が人件費という業態で、2か月の立て替えを続けている。これが構造だ。

2025年。

介護事業者の倒産は176件。

2年連続で、過去最多を更新した。

——だが、この数字だけでは何も見えない。

見るべきは、内訳だ。

訪問介護 91件。

3年連続で過去最多を更新。

通所・短期入所 45件。

前年比 ▲19.6%。

有料老人ホーム 16件。

——気づいてほしい。

デイサービスの倒産は、減っている。

介護業界全体が沈んでいるのではない。

訪問介護だけが、突出して沈んでいる。

なぜか。

「高齢化で需要はあるはずだ」

そのとおりだ。

需要はある。

需要があるのに、倒れている。

この矛盾を説明できなければ、資金繰りの処方箋も書けない。

——理由は、3つ重なっている。

①2024年度の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が引き下げられた。

②ヘルパーが確保できない。

③移動時間とガソリン代が、報酬に反映されにくい。

この3つが、同時に効いている。

そして、2026年度は介護報酬の改定年ではない。

次の改定は2027年度、医療との同時改定だ。

つまり、報酬は当面動かない。

その前提で、資金繰りを設計する。

この記事は、そのための記事だ。

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘や、投資・法務・税務に関する助言を行うものではありません。実際のご契約にあたっては、事前に各社の公式サイトおよび契約書面をご確認いただき、必要に応じて弁護士・税理士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。掲載している数値・条件は2026年7月時点の公開情報に基づきます。融資・ファクタリングいずれも審査があります。介護報酬の算定・請求の実務については、厚生労働省および各都道府県・市区町村の公表資料をご確認ください。

01倒産176件の内訳|訪問介護だけが突出している

グラフを見てほしい。

この1枚が、介護業界で今起きていることのすべてを説明している。

2025年の介護事業者倒産176件の業態別内訳(訪問介護91件・通所短期入所45件・有料老人ホーム16件) 2025年 介護事業者の倒産 176件 ── 業態別の内訳

91件 訪問介護 3年連続で過去最多

45件 通所・短期入所 前年比 ▲19.6%(減少)

16件 有料老人ホーム

ほか その他業態

デイサービスは減っているのに、訪問介護だけが増え続けている 「介護業界が厳しい」では説明できない。訪問介護に固有の何かが起きている

図1:2025年の介護事業者倒産176件の業態別内訳。訪問介護91件(3年連続で過去最多)に対し、通所・短期入所は45件で前年比▲19.6%。出典:東京商工リサーチ。

この図の意味を、はっきり言葉にする。

介護業界全体が沈んでいるのではない。

通所(デイサービス)と短期入所(ショートステイ)は、前年比▲19.6%で減っている。

有料老人ホームは16件。

訪問介護だけが、91件で突出している。

しかも、3年連続で過去最多を更新し続けている。

——「高齢化で需要は増える。だから介護は安泰だ」

その言葉が、訪問介護の現場では成り立っていない。

需要はある。なのに、倒れている。

理由を、次の章で分解する。

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業態 2025年の倒産件数 前年比 構造上の特徴
訪問介護 91件 3年連続で過去最多を更新 小規模事業者が中心。ヘルパーの確保が事業継続の生命線。移動時間とガソリン代の負担が重い
通所・短期入所 45件 ▲19.6%(減少) 施設に利用者が来る。移動コストが少ない。稼働率で採算を管理しやすい
有料老人ホーム 16件 入居者からの利用料収入があり、介護報酬への依存度が相対的に低い
合計 176件 2年連続で過去最多
休廃業・解散 653件 過去最多 倒産の3.7倍。「倒れる前にやめている」事業者のほうが、はるかに多い
※東京商工リサーチの2025年集計に基づきます。業態区分は同社の分類によります。倒産件数と休廃業・解散件数は、集計の定義が異なります。
▶ この数字を、自分の事業所に当てはめる

統計を読むときに大事なのは、「自分はどちら側にいるのか」を確認することだ。

  • 訪問介護をやっているなら、91件の側の構造にいる。基本報酬の引下げ、ヘルパー不足、移動コスト——3つとも当事者だ
  • 通所をやっているなら、45件の側だ。ただし「減っている」というだけで、安全という意味ではない。稼働率が落ちれば、施設の固定費が重くのしかかる
  • 訪問と通所を併設しているなら、事業ごとに損益を分けて見る。合算すると、訪問の赤字が通所の黒字に隠れる。隠れた赤字は、いつか現金の形で表に出る

02なぜ訪問介護だけなのか|3つの原因が重なった

因果を、図で示す。

1つの原因ではない。

3つが同時に効いている。

だから、1つを解決しても足りない。

訪問介護の倒産が突出する3つの原因の重なり 訪問介護だけが倒れる ── 3つの原因が同時に効いている

① 基本報酬の引下げ 2024年度介護報酬改定で 訪問介護の基本報酬が 引き下げられた = 売上の単価が下がる

② ヘルパー不足 ヘルパーの高齢化が進み、 新規の採用が難しい = 依頼が来ても受けられない = 売上の量が伸びない

③ 移動のコスト 利用者宅への移動時間と ガソリン代がかかる = 報酬に反映されにくい = 原価が膨らむ

単価は下がり、量は伸びず、原価は上がる 3方向すべてが、利益を削る方向に働いている

通所(デイサービス)には、③がない ── 利用者が施設に来るから だから通所の倒産は前年比▲19.6%。差はここから生まれている

1つを直しても足りない。3つが同時に効いているからだ

図2:訪問介護の倒産が突出する3つの原因。単価が下がり、量が伸びず、原価が上がる。通所には③(移動コスト)がないため、差が生まれている。

図の下から2段目に、答えがある。

通所(デイサービス)には、③の移動コストがない。

利用者が施設に来るからだ。

送迎はあるが、1台のバスで複数人をまとめて運べる。

訪問介護は、ヘルパーが1軒ずつ回らなければならない。

移動している時間は、介護報酬が発生しない。

ガソリン代も、基本的には事業者の負担だ。

——この差が、倒産件数の差として現れている。

91件と45件の差は、偶然ではない。

構造の差だ。

032024年度改定で、訪問介護の基本報酬に何が起きたか

2024年度(令和6年度)の介護報酬改定。

全体としてはプラス改定だった。

だが、その中で訪問介護の基本報酬だけが引き下げられた。

引下げ幅は、サービス区分により2〜3%程度とされている。

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訪問介護のサービス区分 2024年度改定後の単位数 資金繰りへの意味
身体介護中心型(30分以上1時間未満) 387単位 基本報酬が引き下げられた。1回あたりの売上が減る
その他の身体介護・生活援助の区分 いずれも引下げ 引下げ幅は区分により2〜3%程度
処遇改善加算 加算率の引上げが行われた だが、加算は介護職員の賃金に充てることが前提。事業者の手元には残らない
改定の建付け 基本報酬を下げ、処遇改善加算を上げる。つまり「売上単価は下げるが、加算を取って職員に配れ」という設計になっている。加算を取るには要件を満たす必要があり、事務負担も増える
※厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」に基づきます。単位数はサービス区分・加算の算定状況により異なります。正確な単位数と算定要件は、厚生労働省および各保険者の公表資料をご確認ください。改定の背景としては、訪問介護サービスの利益率が全介護サービスの平均を上回っていたことなどが挙げられています。
▶ 「利益率が高かったから下げた」の、現場での意味

2024年度改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられた背景には、訪問介護サービスの利益率が、全介護サービスの平均を上回っていたという統計がある。
だが、この統計には落とし穴がある。訪問介護は、事業者間の格差が非常に大きい。大手・中堅で稼働率が高く、サービス提供責任者の配置が効率的な事業所と、ヘルパー数名で回している小規模事業所とでは、収益構造がまるで違う。
平均が高いからといって、中央値が高いとは限らない。そして、倒産しているのは平均値の会社ではない。小規模の、余力のない事業所だ。
——これは制度批判をしたいのではない。「自分の事業所は、平均の側にいるのか、それとも下の側にいるのか」を、数字で把握してほしいという話だ。それが、資金繰りの出発点になる。

▶ ヘルパー不足は、資金繰りの問題として現れる

「人手不足」は、採用の問題として語られることが多い。だが、資金繰りの現場では、こう現れる。

  • ①依頼が来ても受けられない。売上が伸びない。だが、事務所の家賃も、サービス提供責任者の給与も、変わらず出ていく。固定費だけが残る
  • ②登録ヘルパーの高齢化。長年支えてくれた方が、体力の限界で辞めていく。後任がいない。だからサービスを縮小する。だから売上が減る
  • ③時給を上げれば人は来る。だが、基本報酬は上がっていない。時給を上げた分は、そのまま利益から出る
  • ④無理に受けると、既存のヘルパーが疲弊して辞める。そして、さらに人が減る

——この連鎖の中で、「今月の給与を払う金があるか」が、経営の中心的な問いになる。だから、資金繰りの話は避けて通れない。

04介護報酬も約2か月サイト|国保連経由の入金フロー

介護報酬の入金も、遅い。

医療とほぼ同じ、約2か月サイトだ。

流れを刻む。

介護報酬の請求から入金までの約2か月のフロー 介護報酬は、サービス提供月から約2か月後に入る

7月 8月10日まで 8月〜9月 9月末ごろ

① サービス提供 7月にサービスを提供 利用者負担分のみ入る

② 国保連へ請求 翌月10日までに 介護給付費請求書を提出

③ 審査 国保連が内容を点検 返戻が出ることがある

④ 入金 翌々月末ごろ 事業所の口座へ

この約2か月、事業所は自己資金で回している

その間も、ヘルパーの給与は毎月末に出ていく 訪問介護は、売上に対する人件費の比率が非常に高い業態だ

月商1,000万円の訪問介護事業所なら 常時2,000万円前後を立て替えていることになる この2,000万円は利益ではない。入金が来るまでの「立て替え」だ

図3:介護報酬の入金フロー。サービス提供月の翌月10日までに国保連へ請求し、翌々月末ごろに入金される。約2か月のタイムラグがある。

医療機関と、同じ構造だ。

利用者負担分はその場で入る。

だが、介護報酬の大部分は、2か月遅れる。

そして——

訪問介護は、売上に対する人件費の比率が、他の業態より高い。

ヘルパーの給与は、毎月末に出る。

2か月待てない。

これが、訪問介護の資金繰りがきつい理由の、もう一つの側面だ。

医療機関の2か月サイトの構造についてはクリニック・医療機関の資金繰り|診療報酬「2ヶ月サイト」の構造を攻略するで詳しく分解している。

介護と医療は、債務者が国保連・支払基金という公的機関である点で共通する。

この「債務者の信用力」が、ファクタリングの手数料を考えるときの鍵になる。

その話は、後半でする。

05訪問介護の原価構造|人件費が固定費として先に出る

訪問介護の損益を、分解する。

訪問介護の原価構造と、報酬が発生しない時間の存在 訪問介護は「報酬が発生しない時間」に金を払っている

ヘルパーの1日(イメージ)

訪問A 移動 訪問B 移動 訪問C 移動 訪問D 記録

緑:介護報酬が発生する時間 赤・橙:報酬が発生しにくい時間(人件費は出る)

移動時間・記録作成の時間にも、人件費は発生している ガソリン代・駐車場代も、多くの場合は事業者の負担になる

訪問介護の損益は、この一点で決まる

訪問が密集している地域 移動が短い → 利益が出る

訪問が散らばっている地域 移動が長い → 同じ売上でも赤字

同じ単位数を算定しても、地域とルート次第で採算は正反対になる

図4:訪問介護の原価構造。移動時間・記録作成の時間にも人件費は発生するが、介護報酬は発生しにくい。採算は訪問の密度で決まる。

この図が言いたいことは、1つだ。

同じ単位数を算定しても、訪問の密度によって、採算は正反対になる。

訪問が密集している地域なら、移動は5分で済む。

散らばっている地域なら、移動に30分かかる。

移動30分に対して、介護報酬は発生しない。

だが、ヘルパーの時給は発生する。

この差が、そのまま利益率の差になる。

——資金繰りの相談で、私はいつもこの計算をお願いする。

「訪問1件あたりの移動時間の平均は、何分ですか」

答えられない事業所が、少なくない。

そして、答えられない事業所ほど、資金繰りが苦しい。

数字を持っていないと、どこを直せばいいかも分からないからだ。

資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方|銀行に出す月次表と、自分を守る日繰り表は別物で記入例まで書いた。

介護事業者には、日繰り表を強く勧める。

給与の支払日と、国保連からの入金日が2か月ずれているからだ。

062026年度は改定年ではない|報酬は当面動かない

ここは、正確に書く。

2026年度は、介護報酬の改定年ではない。

直近の改定は2024年度。

次の改定は2027年度で、医療(診療報酬)との同時改定になる。

つまり——

介護報酬と診療報酬の改定スケジュールと2026年度の位置 2026年度は、介護報酬の改定年ではない

2024年度 介護報酬 改定 訪問介護の 基本報酬は引下げ

2026年度(今) 診療報酬は改定された 介護報酬は改定なし = 報酬は動かない

2027年度 医療・介護 同時改定 次に報酬が動くのは ここ

つまり、2026年度中に「報酬が上がって救われる」ことはない 2024年度に下がった基本報酬のまま、次の改定まで走ることになる この前提で、資金繰りを設計しなければならない

図5:介護報酬の改定スケジュール。直近は2024年度、次は2027年度の医療・介護同時改定。2026年度は介護報酬の改定年ではない。

▶ 「制度が助けてくれる」という前提を、いったん外す

2026年度は、診療報酬が改定された(本体+3.09%)。医療機関には追い風が吹いている。
だが、介護報酬は改定されていない。訪問介護は、2024年度に引き下げられた基本報酬のまま、2027年度まで走ることになる。

  • 報酬が上がるのを待つ、という選択肢はない。少なくとも、当面は
  • できることは、①稼働率を上げる ②移動効率を上げる ③加算を取り切る ④資金繰りの穴を埋める手段を確保する、この4つに絞られる
  • 特に④は、余力があるうちに準備しておく。資金が尽きてから探し始めると、条件の悪い選択肢しか残らない

融資を断られた後に何が起きるかはファクタリングとビジネスローンの違い|同じ100万円でも、コストは10倍変わるで、コストの差として示している。追い詰められてからの調達は、高い。

▶ 訪問介護の経営者に、最初に出してもらう3つの数字

資金繰りの相談を受けるとき、私はこの3つを最初に聞く。ここが埋まれば、打ち手を探す土台ができる。

  • ①訪問1件あたりの、移動時間の平均は何分か。これが分かれば、1日に何件回せるかの上限が分かる。売上の天井が見える
  • ②ヘルパー1人あたりの、月間の稼働時間と算定時間の差は何時間か。この差が、報酬の発生しない時間だ。ここに人件費が消えている
  • ③来月末の給与を払う金は、今、通帳にあるか。国保連からの入金は2か月後だ。「今月は大丈夫」ではなく、「2か月先まで大丈夫か」で見る

——③に「分からない」と答えた事業所は、まず資金繰り表の作り方(日繰り表)から始めてほしい。数字がなければ、資金調達の判断もできない。

07休廃業653件|倒産より多い「静かな撤退」

もう一つ、重要な数字がある。

2025年の介護事業者の休廃業・解散は653件。

過去最多だ。

倒産は176件。

休廃業は、その3.7倍。

つまり——

倒れる前に、やめている事業者のほうが、はるかに多い。

2025年の介護事業者の倒産176件と休廃業・解散653件の対比 2025年 ── 倒産より、静かな撤退のほうがはるかに多い

倒産 176件 2年連続で過去最多

休廃業・解散 653件 過去最多。倒産の約3.7倍

休廃業は「負けた」のではなく「これ以上は続かない」と判断した結果だ 後継者がいない。ヘルパーが集まらない。採算が合わない。だから、たたむ

利用者は、行き場を失う ── 制度の問題であると同時に、経営の問題でもある 出典:東京商工リサーチ(2025年 介護事業者の倒産・休廃業解散)

図6:2025年の介護事業者の倒産176件と休廃業・解散653件。休廃業は倒産の約3.7倍で、いずれも過去最多。

休廃業を選ぶ事業者は、債務超過ではないことも多い。

「まだ払える。だが、これ以上は続かない」

そう判断して、たたむ。

後継者がいない。ヘルパーが集まらない。採算が合わない。

——この決断は、経営者として決して間違ってはいない。

倒産して債権者に迷惑をかけるより、払えるうちにたたむほうが、はるかに誠実だ。

だから、私は「続けるべきだ」とは言わない。

ただ、続けると決めたなら、資金繰りの構造を数字で押さえてほしい。

それだけだ。

倒産全体の兆候は【2026年上半期】倒産5,300件超のデータで読む、危ない資金繰りの12の兆候でチェックリストにした。

08処遇改善加算は、資金繰りを救わない

誤解を、解いておく。

処遇改善加算は、事業者の資金繰りを楽にする制度ではない。

理由は単純だ。

加算として入ってきた分は、介護職員の賃金として支払うことが前提になっている。

手元には、残らない。

▶ 処遇改善加算の、資金繰り上の性質
  • 入ってくるタイミングも、2か月遅れる。加算分も介護報酬の一部として、国保連経由で入金される
  • だが、賃金の支払いは毎月末だ。加算が入る前に、賃金として出ていく
  • つまり、加算を取れば取るほど、立て替え額は増える。加算率が上がるということは、その分の賃金を先に払うということだ
  • 加算の要件を満たすための事務負担も増える。計画書の作成、実績報告、賃金の配分の記録。これらは目に見えないコストだ
  • ただし、加算を取らない選択肢はない。基本報酬が下げられた以上、加算を取らなければ売上そのものが成り立たない

処遇改善加算は、職員のための制度であって、事業者の資金繰りのための制度ではない。この区別を混同すると、資金繰り表が狂う。

09介護事業者の資金調達|借りるか、売るか

ここから、資金調達の話をする。

介護事業者には、一般の中小企業にはない強みが一つある。

介護報酬債権の債務者が、国民健康保険団体連合会(国保連)だという点だ。

実質的な、公的機関だ。

支払われないという事態は、現実的に想定されていない。

——これは、ファクタリングにおいて決定的に効く。

ファクタリングの手数料は、「業者が負う回収リスクの対価」だ。

売掛先が国保連なら、回収リスクはほとんどない。

だから、介護報酬債権のファクタリング手数料は、一般の企業間取引の売掛債権より、低くなるのが自然だ。

一般と同じ「手数料10%」を提示されたら、その根拠を聞いていい。

この論点はファクタリング手数料の相場と実質年率換算表と、クリニック・医療機関の資金繰り|診療報酬「2ヶ月サイト」の構造で掘り下げている。

介護も、まったく同じ理屈だ。

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判断軸 ビジネスローン(借りる) 介護報酬ファクタリング(売る)
法的性質 金銭消費貸借(貸付け)。貸金業の登録が必要 債権譲渡(民法466条)。貸付けではない
コストの表示 実質年率(年○%)。利息制限法の上限が適用される 買取手数料(%)。上限金利は直接には適用されない
審査の対象 事業者自身の財務内容・返済能力 売掛先(国保連)の信用力が中心
貸借対照表 負債が増える 負債は増えない
返済義務 あり なし(償還請求権のない契約の場合)
人件費(毎月出る固定費)に充てるなら こちらが合理的。継続的な支出に、毎月高い手数料を払うのは割に合わない 毎月使うと手数料が固定費化する
2か月サイトの穴を埋めるなら 使えるが、返済が始まる 構造的に噛み合う。入金と同時に完結する
赤字決算の場合 審査が厳しくなる 売掛先の信用力が中心のため、利用できる場合がある(※各社の審査基準による)
※一般的な傾向を整理したものです。実際の条件・審査結果は各社により異なり、いずれも審査があります。ファクタリングの手数料は金利ではなく、債権売買の対価です。介護報酬債権の譲渡にあたっては、国保連への通知・承諾の手続きが必要になる場合があります。取扱いは業者により異なるため、契約前にご確認ください。
介護事業者向けのビジネスローン|アクト・ウィル メディカル
医療機関・介護事業者・調剤薬局を対象としたビジネスローン。実質年率 年7.50%〜年15.00%。法人のみが対象で、申込は電話またはウェブサイトから行う。ヘルパーの人件費や賞与といった、毎月・毎期に確実に出ていく固定費に充てるなら、実質年率という物差しでコストを管理できるこちらが選択肢になる。
実質年率 年7.50〜15.00%法人のみ(医療・介護・薬局)融資可能額:要問い合わせスピード:記載なし

介護事業者向けビジネスローンを相談する

貸金業法に基づく表示
商号:アクト・ウィル株式会社(東京都豊島区東池袋3-11-9/資本金5,500万円/代表 谷口友祐)
登録番号:東京都知事(5)第31521号
実質年率:年7.50%〜年15.00%遅延損害金:年20.00%
融資可能額:同社の公表内容に不整合があるため、当サイトでは「要問い合わせ」とします。正確な金額は同社にご確認ください。
融資までのスピード:同社の公表情報に記載がありません(要問い合わせ)。
対象:法人のみ(医療・介護・調剤薬局)
返済方式・返済期間・返済回数:ご契約内容により異なります(契約書面をご確認ください)
担保・保証人:ご契約内容により異なります(詳細は同社にご確認ください)
※お借入れには審査があります。審査の結果によっては、ご希望に沿えない場合があります。
※条件は2026年7月時点の同社公表値です。貸金業者の登録は、金融庁の「登録貸金業者情報検索サービス」で照合できます。ご契約の前に、必ず同社の公式サイトおよび契約書面をご確認ください。

そして、順序の話をする。

ノンバンクの前に、見るべき場所がある。

介護事業者には、独立行政法人福祉医療機構という専用の融資ルートがある。

医療・福祉分野に特化した、長期・低利の公的融資だ。

設備投資や、長期の運転資金なら、まずここだ。

日本政策金融公庫も使える。

国民生活事業の基準利率は、無担保で年3.50%〜5.20%(2026年7月時点)。

手数料10%のファクタリングとは、比較にならない安さだ。

ノンバンクの前に使うべき公的支援|セーフティネット貸付・保証協会・納税の猶予で、制度ごとに整理してある。

時間があるなら、まずそちらを見てほしい。

——だが、時間がないこともある。

「今月末の給与が払えない」

そのときに使うのが、ビジネスローンであり、ファクタリングだ。

順序を踏んだ上での選択なら、それは合理的な経営判断だ。

▶ 介護事業者が資金調達で失敗する、3つのパターン
  • ①毎月ファクタリングで人件費を作る。人件費は、毎月・確実に出ていく固定費だ。毎月1,000万円の債権を手数料5%で売れば、年間600万円の手数料になる。これは利益をそのまま削る。基本報酬が下がっている業態で、この負担は重すぎる
  • ②処遇改善加算が入るから大丈夫、と考える。加算は職員の賃金に充てるものであり、事業者の手元には残らない。資金繰り表の上で、加算を「使える金」として数えてはいけない
  • ③「審査が甘い会社」を探し始める。この行動そのものが危険信号だ。介護報酬債権は、債務者が国保連=信用力の高い債権であり、本来なら条件が出やすい。その業種で「審査の甘さ」を探しているとしたら、探す相手を間違えている

10介護事業者向けサービスの条件比較

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項目 アクト・ウィル メディカル(ビジネスローン) 株式会社No.1(ファクタリング)
種別 ビジネスローン(貸金業法に基づく貸付け) ファクタリング(債権譲渡)
コスト 実質年率 年7.50%〜年15.00% 買取手数料 0.5%〜15%
遅延損害金 年20.00% —(返済ではないため発生しない)
金額 要問い合わせ(同社の公表内容に不整合があるため、当サイトでは推測しません) 50万円〜3億円
速さ 記載なし(要問い合わせ) 最短30分で振込
対象 法人のみ(医療・介護・調剤薬局) 事業者(法人・個人の別は記載なし)
オンライン完結 不可(電話・ウェブサイトからの申込) 電子契約に対応・全国対応(ヒアリングあり)
償還請求権 —(貸付けのため概念が異なる) なし(ノンリコース)と明記
登録番号 東京都知事(5)第31521号 —(貸金業者ではない)
会社情報 アクト・ウィル株式会社/東京都豊島区東池袋3-11-9/資本金5,500万円/代表 谷口友祐 株式会社No.1/東京都豊島区東池袋1-18-1/設立2016年1月7日/資本金8,000万円/代表 濵野邦彦(名古屋・福岡に支社)
向いている用途 人件費・賞与など、継続的に出ていく固定費 国保連からの入金待ちを埋める、2か月の穴
※2026年7月時点の各社公表値です。いずれも審査があります。No.1の「審査通過率95%以上(2026年4月現在)」は同社の公表値であり、第三者による検証は行われていません。アクト・ウィルの貸金業登録は、金融庁の「登録貸金業者情報検索サービス」で照合できます。ファクタリングの手数料は金利ではなく債権売買の対価であるため、実質年率と単純に比較することはできません。ファクタリング会社の選び方は、下記の関連記事で15項目のチェックリストにしています。

ファクタリング会社の選び方はファクタリング会社の選び方|悪質業者を見抜く15のチェックリストにまとめた。

契約書のどこを見るか。

買戻特約、償還請求権、表明保証、公正証書。

これらが出てきたら、そこで手を止めていい。

ビジネスローンの総支払額の計算はビジネスローンの金利|100万・500万を借りたら総額いくら返すのか【計算表】に円単位の表がある。

「年7.5〜15.0%」と言われても、判断できないはずだ。

円で見てから、決めてほしい。

国保連からの入金待ちを資金化する|株式会社No.1
介護報酬債権(国保連への請求分)を含む売掛債権を売却して資金化する。買取手数料0.5%〜15%、買取可能額50万円〜3億円、最短30分での振込に対応。償還請求権なし(ノンリコース)と明記。審査は売掛先の信用力が中心になるため、債務者が国保連である介護報酬債権は、条件が出やすい構造にある。
手数料 0.5〜15%最短30分振込50万〜3億円電子契約可ノンリコース明記

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※手数料・スピード・金額レンジは2026年7月時点の同社公表値です。実際の条件は、債権額・支払サイト・売掛先の信用力により変動し、審査があります。介護報酬債権の取扱いの可否は、事前に同社にご確認ください。お申込み時間帯・審査状況により、入金が翌営業日以降となる場合があります。「審査通過率95%以上(2026年4月現在)」は同社の公表値であり、第三者による検証は行われていません。ファクタリングの手数料は金利ではなく、債権売買の対価です。

FAQよくある質問

なぜ訪問介護だけ、倒産が突出しているのですか。
3つの原因が同時に効いているためです。
①2024年度介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が引き下げられました。引下げ幅はサービス区分により2〜3%程度とされています(身体介護中心型・30分以上1時間未満は387単位)。売上の単価が下がりました。
②ヘルパーの高齢化と人手不足です。依頼が来ても、対応できるヘルパーがいなければ受けられません。売上の量が伸びません。
③移動時間とガソリン代です。ヘルパーが利用者宅を1軒ずつ回る間、介護報酬は発生しませんが、人件費は発生します。ガソリン代・駐車場代も、多くは事業者の負担です。
通所(デイサービス)には③がありません。利用者が施設に来るからです。だから通所・短期入所の倒産は45件で前年比▲19.6%と減っています。91件と45件の差は、この構造の差から生まれています。
2026年度に、介護報酬は改定されますか。
いいえ。2026年度は、介護報酬の改定年ではありません。
直近の介護報酬改定は2024年度(令和6年度)です。次の改定は2027年度で、医療(診療報酬)との同時改定になります。
なお、2026年度には診療報酬の改定が行われました(本体+3.09%、薬価等▲0.87%、全体+0.22%。薬価は2026年4月1日、本体は2026年6月1日施行)。医療は改定されましたが、介護は改定されていません。医療と介護を併設している法人は、この点を混同しないでください。
つまり、訪問介護は2024年度に引き下げられた基本報酬のまま、次の改定まで走ることになります。「報酬が上がって救われる」という前提を、当面は外して資金繰りを設計する必要があります。
介護報酬の入金は、いつになりますか。
サービスを提供した月の翌月10日までに、国民健康保険団体連合会(国保連)へ介護給付費請求書を提出します。国保連の審査を経て、翌々月末ごろに事業所の口座へ入金されます。
たとえば7月にサービスを提供した分なら、8月10日までに請求し、9月末ごろに入金されます。約2か月のタイムラグがあります。
一方、ヘルパーの給与は毎月末に支払われます。訪問介護は、売上に対する人件費の比率が非常に高い業態です。つまり、常に2か月分の人件費を立て替えている状態になります。
月商1,000万円の訪問介護事業所なら、常時2,000万円前後を立て替えている計算になります。この金額は利益ではなく、入金が来るまでの立て替えです。
なお、請求内容に不備があると返戻され、入金がさらに後ろにずれます。
処遇改善加算を取れば、資金繰りは楽になりますか。
いいえ。処遇改善加算は、事業者の資金繰りを楽にする制度ではありません。
理由は、加算として入ってきた分を、介護職員の賃金として支払うことが前提になっているためです。手元には残りません。
むしろ、資金繰りの観点では負担が増える側面もあります。加算分も介護報酬の一部として、国保連経由で約2か月遅れて入金されます。一方、賃金の支払いは毎月末です。つまり、加算を取れば取るほど、先に支払う賃金が増え、立て替え額も増えます。
また、加算の要件を満たすための計画書作成・実績報告・賃金配分の記録といった事務負担も発生します。
ただし、加算を取らないという選択肢はありません。基本報酬が引き下げられた以上、加算を取らなければ売上そのものが成り立たないからです。処遇改善加算は職員のための制度であり、事業者の資金繰りのための制度ではない——この区別を、資金繰り表の上でも明確にしてください。
介護報酬債権のファクタリング手数料は、どのくらいが妥当ですか。
介護報酬債権の債務者は、国民健康保険団体連合会(国保連)です。実質的な公的機関であり、支払われないという事態は現実的に想定されていません。
ファクタリングの手数料は、業者が負う回収リスクの対価です。売掛先が国保連であれば、回収リスクはほとんどありません。したがって、一般の企業間取引の売掛債権よりも、手数料は低くなるのが自然です。
もし、一般の売掛債権と同水準の「手数料10%」を提示されたのであれば、「この手数料率の根拠を教えてください」と聞いてください。合理的な説明(事務コスト、返戻リスク、資金調達コスト等)ができる業者であれば、その中身を検討すればよいでしょう。説明を嫌がる業者は、見送ってよいと考えます。
金融庁は、買取代金が債権額に比べて著しく低額であるケースを、偽装ファクタリングの疑いがある事例として挙げています。
また、見積書を受け取ったら、手数料率ではなく「手取りいくらか」を円で確認してください。
赤字決算でも、介護事業者は資金調達できますか。
手段によります。
ビジネスローン(借入)は、事業者自身の財務内容・返済能力が審査されます。赤字決算の場合、審査は厳しくなります。ただし、赤字の中身によって結論は変わります。一時的な要因による赤字なのか、構造的な赤字なのかで、評価は異なります。
ファクタリングは、売掛先の信用力を中心とした審査が行われます。介護報酬債権であれば、売掛先は国保連です。したがって、自社が赤字であっても利用できる場合があります。ただし、各社の審査基準によります。
そして、順序を確認してください。介護事業者には、独立行政法人福祉医療機構という医療・福祉分野に特化した公的融資のルートがあります。日本政策金融公庫の国民生活事業も使えます(基準利率は無担保で年3.50%〜5.20%。2026年7月時点)。
時間があるなら、まずこちらを検討してください。コストが大きく違います。

まとめ

2025年、介護事業者の倒産は176件。

だが、大事なのは総数ではない。

訪問介護 91件。

通所・短期入所 45件(前年比▲19.6%)。

有料老人ホーム 16件。

デイサービスは、減っている。

訪問介護だけが、突出して沈んでいる。

理由は、3つ重なっている。

①2024年度改定で、基本報酬が引き下げられた。

②ヘルパーが確保できない。

③移動時間とガソリン代が、報酬に反映されにくい。

単価は下がり、量は伸びず、原価は上がる。

3方向すべてが、利益を削っている。

——そして、2026年度は介護報酬の改定年ではない。

次は2027年度、医療との同時改定だ。

報酬が上がって救われる、という前提は、当面は外したほうがいい。

介護報酬は、国保連経由で約2か月遅れる。

ヘルパーの給与は、毎月末に出る。

売上の大部分が人件費という業態で、2か月の立て替えを続けている。

これが、構造だ。

——できることは、4つに絞られる。

①稼働率を上げる②移動効率を上げる③加算を取り切る④資金繰りの穴を埋める手段を確保する

特に④は、余力があるうちに準備してほしい。

資金が尽きてから探すと、条件の悪い選択肢しか残らない。

2025年、休廃業・解散は653件。

倒産の3.7倍だ。

倒れる前に、やめている事業者のほうが、はるかに多い。

その判断を、私は否定しない。

だが、続けると決めたなら。

数字を、持ってほしい。

訪問1件あたりの移動時間は、何分か。

来月末の給与を払う金は、通帳にあるか。

それが、資金繰りの出発点だ。

出典・参考
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」
国民健康保険中央会(国民健康保険団体連合会)
厚生労働省
独立行政法人福祉医療機構
金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」
金融庁「登録貸金業者情報検索サービス」
e-Gov 法令検索「貸金業法」
日本政策金融公庫「金利情報」
・東京商工リサーチ「2025年 介護事業者の倒産・休廃業解散」

相談窓口
金融庁 金融サービス利用者相談室:0570-016811/日本貸金業協会 貸金業相談・紛争解決センター:0570-051051/警察相談専用電話:#9110

監修:黒岩 智之(くろいわ ともゆき)
事業再生コンサルタント/中小企業の資金調達支援18年。地方銀行の融資審査部に9年在籍後、独立。これまで1,200社超の資金繰り相談に対応。建設・運送・医療介護分野の資金調達を専門とする。

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