警備業の資金繰り|人が資産で、人件費が最大のリスク
この記事の結論
- 警備業の資金繰りは、一行で説明できる。売上原価のほとんどが人件費であり、それは毎月、確実に出ていく。一方、契約先からの入金は翌月末から翌々月。この時間差が、すべてだ。
- 警備業は、労働集約型の極北にある。在庫がない。仕入もない。工場も要らない。だから「資金は要らない業種」だと誤解されている。まったく逆だ。売上の大半が人件費という構造は、売上とほぼ同額の現金を、毎月先に用意することを意味する。
- 逆説がある。大型案件を取るほど、先に払う人件費が増える。大規模現場に20人を配置すれば、その20人分の給与が先に出る。入金は2か月後だ。受注が資金を食う。
- 建設現場の交通誘導警備は、元請ゼネコンの支払サイトに縛られる。建設業の資金繰りと、完全に連動している。ゼネコンの支払が遅れれば、警備会社の給与支払が直撃を受ける。
- 2026年1月1日、取適法(中小受託取引適正化法)が施行された。「役務提供委託」も対象だ。手形の交付は禁止。支払期日は受領日から60日以内。従業員基準(役務提供委託等は100人)が追加され、対象が広がった。
警備員に、給料を払う。
毎月25日に、確実に出ていく。
社会保険料を払う。
翌月末に、確実に出ていく。
——そして、契約先からの入金は、翌月末か、翌々月だ。
この時間差が、すべてだ。
——警備業には、在庫がない。
仕入もない。
工場も要らない。
だから、「資金の要らない業種」だと思われている。
まったく、逆だ。
売上原価のほとんどが人件費——
これは、売上とほぼ同じ額の現金を、毎月、先に用意するということだ。
製造業なら、材料を安く仕入れる工夫がある。
運送業なら、燃料の使い方を変える工夫がある。
警備業には、それがない。
人を配置すれば、その人の給料は、必ず出る。
——削る余地が、ない。
だから、この記事は「人件費」という一点を軸に書く。
そして、誰も書いていない逆説を書く。
大型案件を取るほど、資金は苦しくなる。
目次
01給与は先に、入金は後に|タイムラインで見る
まず、金の出入りを時間軸に並べる。
この図が、警備業の資金繰りのすべてだ。
この図の下の帯を、読んでほしい。
給与は、待ってくれない。
1日でも遅れれば、警備員は辞める。
——これは、比喩ではない。
人手不足の業界だ。
給与の遅配は、即座に、現場の崩壊を意味する。
つまり、警備会社にとって、給与の支払だけは、どんなことがあっても落とせない支出だ。
——他の支出は、待ってもらえるかもしれない。
給与は、待ってもらえない。
この一点が、警備業の資金繰りを特別に厳しくしている。
資金繰りが悪化する原因の一般的な分類は資金繰りが悪化する7つの原因|黒字なのに金がない構造で7つに切り分けた。
警備業は、そのうち「人件費先行型」の、最も純粋な形だ。
警備員50名を抱える警備会社を考える。
警備員の給与を1人あたり月28万円とすると、月1,400万円。ここに法定福利費(社会保険料の会社負担)を約15%乗せると、月1,610万円。さらに、管理部門の人件費・隊員の制服/装備・車両・保険・事務所家賃を加えると、月2,000万円前後が固定的に出ていく。
月商が2,400万円なら、売上の8割以上が、入金より先に出ている計算になる。
支払条件が「月末締め翌々月末払い」なら、入金までのラグは最大で約60日。つまり常時4,000万円前後の運転資金が、通帳に寝ていなければ回らない。
この4,000万円は、利益ではない。立て替えているだけの金だ。そして、隊員を70名に増やせば、必要な立替も比例して増える。
——警備業に「在庫」はない。だが、「人」という、毎月現金化を要求してくる仕掛品がある。
02労働集約型の極北|削る余地が、どこにもない
警備業の売上原価の内訳を見る。
ほとんどが、人件費だ。
——他の業種と比べる。
ここに、警備業の本当の厳しさがある。
この図の真ん中の帯を、もう一度読んでほしい。
材料費なら、仕入先を変える、まとめ買いをする、という工夫がある。
人件費には、それがない。
人を配置すれば、給料は必ず出る。
——しかも、警備業の人件費は「毎月・確実に・ほぼ同額」出ていく。
固定費に、極めて近い。
売上が落ちても、隊員を抱えている限り、給与は出る。
——ここが、警備業の本当に苦しいところだ。
「今月は暇だから、隊員を減らそう」
——それは、できない。
いま隊員を切ったら、来月、現場に人を出せなくなるからだ。
そして、いまの警備業界で、人はもう集められない。
だから、仕事が薄い月も、隊員を抱え続ける。
給料を、払い続ける。
——これが、警備業の経営者が毎月やっていることだ。
「人が資産」と言われる。
その資産は、毎月、現金を要求してくる。
03逆説|大型案件を取るほど、先に払う人件費が増える
ここが、警備業の経営者がいちばん苦しむところだ。
大型の現場が取れた。
大規模再開発。
大型イベント。
商業施設の常駐警備。
みんなで喜んだ。
——そして、2か月後、資金が詰まる。
なぜか。
その現場に、20人を配置したからだ。
20人分の給与が、翌月25日から毎月出ていく。
そして、その現場の代金が入るのは、2か月後だ。
図にする。
この図を見て、思い当たる人がいるはずだ。
「大きな現場が取れた」
——その瞬間、1,000万円を超える資金需要が生まれる。
受注を喜んだ2か月後に、給与が払えなくなる。
——これが、警備業の典型的な詰み方だ。
私は、この経路を何度も見てきた。
共通しているのは、「受注したときに資金計画を作っていない」という一点だ。
——だから、私は必ずこう聞く。
「その現場のために、何円を、何か月間、立て替えますか」
答えられないなら、まだ受注してはいけない。
13週の資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方|13週キャッシュフロー予測で「いつ詰まるか」を先に知るに書いた。
警備業は、給与支払日を軸に、週次で見るべき業種だ。
給与支払日に、通帳にいくらあるか。
それだけを、13週先まで並べる。
——これができている会社は、資金で死なない。
受注は、無条件に善ではない。警備業の受注可否は、資金で決めるべき場面がある。次の3つを計算してから判断してほしい。
- ①ピーク時の立替額。その現場のために、累計でいくら人件費を立て替えるか。入金開始までに何か月分の給与を払うか。この金額が、手元資金+既存の借入枠を超えるなら、受注する前に調達の目処をつける
- ②その現場の実質単価。1人1日あたりの請負単価 − (日給+法定福利費+交通費+管理費)。ここに法定福利費を入れ忘れる会社が非常に多い。会社負担分は、給与の約15%前後になる。これを乗せると、利益が出ていない現場が見つかることがある
- ③その現場のために採用するなら、採用コストも原価だ。求人広告費、紹介手数料、教育(法定教育)の時間。これらは、現場が始まる前に出ていく
そして、②の計算で赤字の現場が見つかったら、単価を交渉する。2026年1月から、取適法が価格協議に応じない一方的な代金決定を禁止した。単価交渉は、法律に支えられている。
では、その現場の採算をどう計算するのか。
1人1日あたりで、分解する。
ここに、法定福利費を入れ忘れる会社が非常に多い。
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| 項目 | 金額の例 | 備考 |
|---|---|---|
| ①請負単価(1人1日) | 18,000円 | 元請から受け取る金額 |
| ②警備員の日給 | 12,000円 | 本人に支払う金額 |
| ③法定福利費(会社負担) | 約1,800円 | 健康保険・厚生年金・雇用保険・労災の会社負担分。給与の約15%前後。ここを忘れる会社が多い |
| ④交通費 | 1,000円 | 現場までの実費 |
| ⑤装備・制服の償却/保険 | 500円 | 年間費用を稼働日数で割る |
| ⑥管理費(配車・労務・教育) | 1,500円 | 管理部門の人件費・事務所家賃・法定教育の時間 |
| 直接原価の合計(②〜⑥) | 16,800円 | — |
| 1人1日あたりの利益(①−合計) | 1,200円 | 利益率 約6.7% |
③の法定福利費を入れずに計算すると、この現場の利益は「1,200円+1,800円=3,000円」に見える。実際の2.5倍だ。
そして、請負単価が16,000円の現場だったら——③を入れた瞬間に、この現場は赤字(1人1日あたり▲800円)になる。
ここに、警備業の残酷さがある。
- ③を入れずに見積もると、赤字の現場を受けてしまう
- 赤字の現場でも、警備員の給与は先に出ていく
- そして、その現場が大きいほど、赤字も大きくなる
赤字の現場を減らすことは、単価交渉と同じ効果を持つ。そして、こちらは相手の同意が要らない。
——まず、いま抱えている元請ごとに、この表を作ってほしい。1枚の紙で足りる。そして、そこに答えが書いてある。
04交通誘導警備は、ゼネコンの支払サイトに縛られる
ここは、交通誘導警備(2号警備)をやっている会社に向けて書く。
あなたの資金繰りは、建設業の資金繰りと連動している。
——なぜか。
売掛先が、元請ゼネコンだからだ。
そして、建設業には特有の支払構造がある。
工事代金の入金は、完成後。
材料と人工は、先払い。
つまり、元請ゼネコン自身が、資金繰りに苦しんでいる。
——その苦しさは、下に転嫁される。
支払サイトの長期化という形で。
図にする。
この図の一番下を、読んでほしい。
元請の支払が1か月遅れれば、その1か月分の給与を、警備会社が丸ごと立て替えることになる。
——だから、交通誘導警備の会社は、元請ゼネコンの経営状態を見ておいたほうがいい。
建設業の倒産は、増え続けている。
2025年の建設業の倒産は2,014件(前年比+4.6%)で、4年連続の増加。
12年ぶりに2,000件を超えた。
そして、2026年上半期は1,026件(+5.8%)。
上半期として2014年以来12年ぶりに1,000件を超えている。
うち、職別工事が522件。
2012年以来14年ぶりの500件超で、職別工事が総合工事を上回るという構造変化が起きている。
——つまり、元請の下にいる専門工事業者が、先に倒れている。
警備会社の売掛先も、そこにいる。
建設業の資金繰りの構造は建設業の資金繰り|工事代金の入金は完成後、材料と人工は先払いで詳しく書いた。
交通誘導警備をやっているなら、必ず読んでほしい。
あなたの売掛先が、どういう構造の中で金を払っているのかを知ることは、与信管理そのものだ。
元請ゼネコンからの入金が、1日でも遅れたら——その日のうちに確認してください。
「今月は資金繰りが厳しくて、来週まで待ってもらえませんか」
——この一言が出た時点で、その元請は危険水域にいる可能性があります。
そして、警備会社にとってこれは致命的です。元請の入金が遅れても、警備員の給与は遅らせられないからです。1か月分の給与を、丸ごと立て替えることになります。
やるべきことは3つです。
- ①その元請への売掛金残高を、いま確認する。いくら回収できていないのか
- ②追加の隊員配置は、いったん止める。債権を積み増さない
- ③支払期日と、遅延の理由を、書面(メール)で確認する。記録を残す
「今回だけ」を許すと、次はもっと大きな金額で飛ばれます。これは、私が18年見てきたなかで、最も再現性の高い法則です。
05人手不足と人件費高騰|警備業の倒産データ
数字を見る。
警備業の倒産は、過去最多ペースにある。
そして、その理由は「仕事がない」ではない。
「人がいない」だ。
数字を、言葉に翻訳する。
警備員の平均月収は26万8,300円。
全職種の平均は33万0,400円。
差は、月に6万円以上。
年間で、75万円近い差だ。
——この差がある限り、人は来ない。
来ても、辞める。
だから、警備業の人手不足感は正社員・非正社員とも約9割に達している。
——そして、2025年上半期に倒産した16件のうち、少なくとも5件が人手不足を要因としている。
仕事がなくて倒れたのではない。
仕事はあった。
人が、いなかった。
——ここから先は、単純な算数だ。
人を集めるには、賃金を上げるしかない。
賃金を上げるには、単価を上げるしかない。
すべては、単価交渉に戻ってくる。
——そして、その交渉に、2026年から法律が味方する。
倒産データの全体像は2026年上半期の倒産データ|物価高・人手不足・後継者難が過去最多で、主因別・規模別に分解した。
人手不足倒産は、2026年上半期に227件。
過去最多で、5年連続の増加だ。
06取適法(2026年1月)で「役務提供委託」も対象に
2026年1月1日、取適法(中小受託取引適正化法)が施行された。
下請法を改正し、名称も変えたものだ。
そして——
「役務提供委託」も、この法律の対象だ。
警備という役務の提供を委託される取引は、役務提供委託にあたり得る。
つまり、警備会社を守る規律が、2026年から動き始めた。
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| 取適法のポイント | 内容 | 警備業への効き方 |
|---|---|---|
| 支払期日は受領日から60日以内 | 給付を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内で定める義務 | ここが最大の効き目。元請の支払サイトが90日を超えている場合、対象取引では通らなくなった |
| 手形の交付が禁止 | 手形での支払いは禁止行為。電子記録債権・一括決済方式のうち、支払期日までに満額の金銭と引き換えることが困難なものも禁止 | 手形で支払われている場合に効く。紙の約束手形は2027年3月末で流通が終わる |
| 価格協議に応じない一方的な代金決定の禁止 | 協議を求められたのに応じず、一方的に代金を決めることの禁止 | 「警備員の賃金が上がったので単価の協議を」という申し入れを、無視できなくなった |
| 買いたたきの禁止 | 通常の対価に比べ著しく低い代金を不当に定めることの禁止 | 採算割れの単価で受けさせられる問題に効く |
| 受領拒否の禁止/不当なやり直しの禁止 | 中小受託事業者に責任がないのに、給付の受領を拒む・やり直させることの禁止 | 現場の急な中止・変更を一方的に押しつけられる問題に効き得る |
| 適用対象の拡大 | 資本金基準に加え、従業員基準を追加。役務提供委託等は常時使用する従業員100人が基準。資本金基準・従業員基準のいずれかを満たせば対象 | 元請の資本金が小さくても、従業員100人超なら対象になり得る |
| 罰則 | 勧告・指導のほか、50万円以下の罰金 | 公正取引委員会・中小企業庁に相談窓口がある。匿名での情報提供も受け付けている |
この表のなかで、警備業にいちばん効くのは「支払期日は受領日から60日以内」だ。
——現場の言葉に翻訳する。
「うちは90日サイトです」
それは、対象取引であれば、もう通らない。
そして、もう一つ。
「価格協議に応じない一方的な代金決定の禁止」
「警備員の賃金が上がったので、単価の協議をお願いしたい」
その申し入れを、委託事業者は無視できなくなった。
——ここまで書いて、正直なことを言う。
法律が変わっても、現場の力関係はすぐには変わらない。
「取適法があるので単価を上げてください」
——これを、売上の6割を占める元請に言えるか。
言えないから、みんな黙ってきた。
分かる。
痛いほど分かる。
だが、順序は変えられる。
- ①まず、書面(メール)で「協議の申し入れ」をする。喧嘩ではない。法改正への対応として、協議の場を求める。取適法は、価格協議に応じない一方的な代金決定を禁じた。記録に残すことが、最初の一歩だ
- ②根拠資料を添える。「なんとなく苦しい」ではなく、数字で示す。警備員の平均月収は26万8,300円で、全職種平均の33万0,400円を大きく下回る(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和6年)。人を確保するには賃上げが要る、という説明を、公表統計で裏づける
- ③自社の取引が取適法の対象かを確認する。元請の資本金・従業員数(役務提供委託等は100人)。いずれかの基準を満たせば対象になり得る。公正取引委員会の公表資料で確認する
- ④それでも動かないなら、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口を使う。下請取引に関する相談窓口があり、匿名での情報提供も受け付けている
- ⑤最後に、その元請の採算を計算する。1人1日あたりの請負単価 −(日給+法定福利費+交通費+管理費)。赤字の元請が見つかることがある。赤字の仕事を減らすことは、単価交渉と同じ効果を持つ。そして、こちらは相手の同意が要らない
07売掛先が大手ゼネコン=信用力が高い、という強み
ここは、警備業の数少ない「強み」の話だ。
警備会社の売掛先は、誰か。
大手ゼネコン。
商業施設の運営会社。
イベント主催者。
官公庁。
——多くの場合、信用力の高い組織だ。
そして、ファクタリングの審査は売掛先の信用力が中心になる。
自社の財務内容ではない。
——これは、警備業にとって決定的に重要な事実だ。
自社が赤字でも、自社が小さくても、
売掛先が大手ゼネコンなら、ファクタリングは機能し得る。
そして、手数料も低い側に出やすい条件が揃っている。
この図の一番下を、もう一度読んでほしい。
「売掛先が大手ゼネコンで、警備実施報告書もあり、入金履歴もある。なぜ、この手数料なのですか」
——この質問を、してほしい。
答えられない業者は、避けたほうがよい。
そして、2社間と3社間の違いも理解しておく。
3社間は、売掛先(元請)に通知・承諾を得る。
業者のリスクが下がるので、手数料も下がりやすい。
だが——
元請に知られる。
「あの警備会社、資金繰りが厳しいらしい」
——その噂を恐れる気持ちは、正当だ。
私は綺麗事を言わない。
2社間は、知られないが、高い。
3社間は、安いが、知られる。
このトレードオフの詳細は2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの違い|手数料・通知・登記で比較に書いた。
債権譲渡登記を求められるかどうかも、ここで整理している。
手数料の相場観はファクタリング手数料の相場と実質年率換算表|支払サイト別マトリクスで、支払サイト別のマトリクスにした。
「5%は高いのか、安いのか」
支払サイトが分からなければ、その質問には答えられない。
表を見てから交渉してほしい。
08警備業の資金調達|借りるか、売るか
整理する。
警備業の資金需要は、ほぼ一種類しかない。
人件費の立替だ。
設備投資は少ない。
在庫はない。
必要なのは、給与を払うための現金だけだ。
そして、その性質は「毎月・確実に・ほぼ同額発生する」もの。
つまり、限りなく固定費に近い。
——この性質を踏まえて、手段を選ぶ。
図の一番下を、もう一度読んでほしい。
毎月の給与をファクタリングで回し続けると、利益がそのまま削られる。
——理由は単純だ。
ファクタリングの手数料は、使うたびに発生する。
毎月1,000万円分の債権を、手数料5%で売却したら。
月50万円。
年間で600万円。
これは、利益をそのまま削る。
——警備業は、利益率が高い業種ではない。
年600万円の手数料は、致命的だ。
——だから、私はこう考える。
毎月確実に出ていく人件費には、「枠」を作る。
日本政策金融公庫。
信用保証協会付き融資。
銀行の当座貸越。
日本政策金融公庫の国民生活事業は、2026年7月時点で無担保 年3.50%〜5.20%、担保有 年2.50%〜4.80%。
年3%なら、1,000万円を60日借りて、利息は約5万円だ。
手数料5%なら、50万円。
10倍の差がある。
——ただし、これは単純化した比較だ。
融資には審査があり、自社の財務内容が見られる。
ファクタリングの審査は、売掛先(元請)の信用力が中心になる。
見られるものが、まったく違う。
だから、「安いほう」ではなく「通るほう」という現実もある。
同じ100万円を同じ30日だけ使うときの円単位のコスト比較はファクタリングとビジネスローンの違い|同じ100万円でも、コストは10倍変わるにまとめた。
ビジネスローンの金利が総額でいくらになるのかはビジネスローンの金利|100万・500万を借りたら総額いくら返すのか【計算表】で円単位のシミュレーションを出している。
そして、公的融資の全体像はノンバンクの前に使うべき公的支援|セーフティネット貸付・保証協会・納税の猶予で制度ごとに整理した。
「人件費の立替」という資金使途は、公的融資が最も理解しやすい類型だ。
「大手ゼネコンからの入金が2か月後に入るまでのつなぎです」
これほど説明しやすい資金使途は、そう多くない。
まず、ここを叩いてほしい。
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| 資金使途 | 期間の性質 | 第1候補 | 第2候補 | 避けたい手段 |
|---|---|---|---|---|
| 毎月の警備員の給与・法定福利費 | 毎月、確実に、ほぼ同額出る | 日本政策金融公庫(運転資金)/信用保証協会付き融資/銀行の当座貸越 | ビジネスローン(年3.0〜18.0%が目安) | 毎月のファクタリング(手数料が利益を削り続ける) |
| 大型現場の立ち上がり(増加運転資金) | 現場期間中だけ膨らむ | 銀行の当座貸越/短期の運転資金融資 | ファクタリング(請求済み債権がある場合) | — |
| 元請の入金遅れ・給与支払日までのつなぎ | 数日〜数十日で消える穴 | ファクタリング(最短で当日〜数日) | 短期のつなぎ融資 | — |
| 隊員の採用コスト(求人広告・紹介手数料) | 現場が始まる前に出る投資 | 公庫・保証協会付き融資/雇用関係の助成金を先に確認 | ビジネスローン | 高コストな短期資金での繰り返し |
| 車両・無線機・装備の購入 | 回収に3〜7年 | 公庫(設備資金)/リース | 信用保証協会付き融資 | ファクタリング(期間が合わない) |
| 税金・社会保険料の支払 | 期限がある固定的な支出 | まず、納税の猶予制度を確認する | 公庫・保証協会付き融資 | 高コストな短期資金での穴埋めの繰り返し |
警備業は、人件費が売上原価の大半を占める。だから、社会保険料の会社負担分も、金額が大きくなる。そして、資金繰りが苦しくなったとき、真っ先に手を付けられてしまうのが、この社会保険料だ。
——だが、これは最も避けるべき選択だ。
- ①年金事務所は、税務署と同様に差押えの権限を持つ。売掛金が差し押さえられれば、元請に知られる。事業は続かない
- ②社会保険料の滞納があると、金融機関の融資審査は極めて厳しくなる。「公的な支払いを止めている会社」という評価になる
- ③延滞金が加算される。放置するほど、返す金額が増える
払えないと分かった時点で、年金事務所に相談してください。納付の猶予・換価の猶予といった制度があります。「相談せずに滞納する」のと「相談したうえで猶予を受ける」のとでは、その後がまったく違います。
——制度の詳細は、ノンバンクの前に使うべき公的支援|セーフティネット貸付・保証協会・納税の猶予に整理しました。高コストな資金で社会保険料を払う前に、まず、こちらを読んでください。
09資金調達サービスの条件比較
条件を並べる。
2026年7月時点の各社公表値だ。
「記載なし」の項目は、推測で埋めない。
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| 項目 | 株式会社No.1(ファクタリング) | エーストラスト(ファクタリング) | アクト・ウィル(ビジネスローン) |
|---|---|---|---|
| 種別 | 債権譲渡(民法466条) | 債権譲渡(民法466条) | 貸金業法に基づく貸付け |
| コスト | 買取手数料 0.5%〜15% | 3社間 1.0〜4.9%/2社間 5〜15% | 実質年率 年3.00%〜年15.00% |
| 遅延損害金 | —(返済ではないため発生しない) | —(同左) | 年20.00% |
| 金額 | 50万円〜3億円 | 〜5,000万円(審査により1億円) | 300万円〜1億円 |
| 速さ | 最短30分で振込 | 最短2時間で送金 | 審査最短60分・即日融資に対応 |
| 対象 | 事業者(法人・個人の別は記載なし) | 法人のみ | 法人のみ |
| オンライン完結 | 電子契約に対応・全国対応(ヒアリングあり) | 2社間はオンライン対応 | 不可(チャットボット申込+ファクシミリ・郵送) |
| 必要書類 | 各社サイトでご確認ください | 本審査=決算書・請求書・通帳/契約時=履歴事項全部証明書・印鑑証明・住民票 | 代表者本人確認書類・決算報告書の一部(損益計算書、売掛金/買掛金内訳書) |
| 償還請求権 | なし(ノンリコース)と明記 | 明記なし(契約書で要確認) | —(貸付けのため概念が異なる) |
| 登録番号 | —(貸金業者ではない) | —(貸金業者ではない) | 東京都知事(5)第31521号 |
| 向いている場面 | 給与支払日に間に合わせる、スポットの資金化 | 3社間が選べるなら、手数料が下がりやすい | 毎月の人件費など、継続的に出る固定的な支出 |
契約書のどこを見るか。
買戻特約。
表明保証。
公正証書。
これらが出てきたときに何が起きるかはファクタリング会社の選び方|悪質業者を見抜く15のチェックリストに書いた。
見積もりを取る前に、読んでほしい。
——特に、「回収できなければ買い戻してもらう」という条項。
これがあると、その取引は経済的に「貸付け」に近づいていく。
金融庁は、経済的に貸付けと同様の機能を有するものは、貸金業に該当するおそれがあるとしている。
契約書は、必ず読んでほしい。
読まずに判を押した会社が、翌年、私のところに来る。
FAQよくある質問
仕組みはこうです。大型現場を受注する → 隊員を配置する(足りなければ採用する) → 翌月25日から給与が毎月出ていく → しかし元請からの入金は翌々月末。つまり、2か月分の給与を先に払い切ってから、入金が始まります。
隊員20名、1人あたり月32万円(法定福利費込み)なら、月約640万円。2か月で約1,280万円を先に立て替える計算になります(例示)。
この状態を「経営が悪い」と自己評価すると、判断を誤ります。必要なのは、受注する前に「何円を、何か月間、立て替えるのか」を計算することです。
対策は3つです。①金が要る前に、融資の枠を確保しておく。公庫も保証協会も、時間がかかります。②現場の実質単価を計算する。1人1日あたりの請負単価 −(日給+法定福利費+交通費+管理費)。法定福利費を入れ忘れる会社が非常に多いので注意してください。③入金までのつなぎには、必要に応じてファクタリングを使う。
金融機関も、増加運転資金の考え方は理解しています。受注が増えているという事実は、融資の場面で説明材料になります。ただし、融資には審査があります。
ファクタリングの手数料は、使うたびに発生します。毎月1,000万円分の債権を手数料5%で売却すれば、月50万円、年間で600万円の手数料になります。これは利益をそのまま削ります。警備業は利益率が高い業種ではないため、この負担は致命的になり得ます。
継続的に出ていく人件費に対しては、実質年率で管理できる融資のほうが合理的なケースが多くなります。日本政策金融公庫(国民生活事業)の基準利率は、2026年7月時点で無担保 年3.50%〜5.20%、担保有 年2.50%〜4.80%です。年3%なら、1,000万円を60日借りたときの利息は約5万円(単利概算)。手数料5%の50万円とは、10倍の差があります。
ただし、単純比較はできません。融資には審査があり、自社の財務内容が見られます。一方、ファクタリングの審査は売掛先(元請)の信用力が中心です。見られるものが違います。
したがって、継続的な人件費には「枠」を、大型現場の立ち上がりや元請の入金遅れといったスポットの需要には「売る」を——という使い分けが現実的です。いずれも審査があります。
「今月は資金繰りが厳しくて、来週まで待ってもらえませんか」——この一言が出た時点で、その元請は危険水域にいる可能性があります。
警備会社にとって、これは致命的です。元請の入金が遅れても、警備員の給与は遅らせられないからです。給与の遅配は、人手不足の業界では即座に現場の崩壊を意味します。
やるべきことは3つです。①その元請への売掛金残高を確認する(いくら回収できていないのか)、②追加の隊員配置をいったん止める(債権を積み増さない)、③支払期日と遅延理由を書面で確認する。
そして、2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法)です。役務提供委託も対象で、支払期日は給付を受領した日から起算して60日以内と定められています。対象取引であれば、支払遅延は法律の問題になります。公正取引委員会・中小企業庁には下請取引の相談窓口があり、匿名での情報提供も受け付けています。
「今回だけ」を許すと、次はもっと大きな金額で飛ばれます。これは、私が18年見てきたなかで最も再現性の高い法則です。
①支払期日は、給付を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内で定めることが義務づけられました。「うちは90日サイト」は、対象取引では通らなくなりました。
②手形の交付が禁止されました。電子記録債権や一括決済方式であっても、支払期日までに満額の金銭と引き換えることが困難なものは、同様に禁止の対象です。
③価格協議に応じない一方的な代金決定の禁止。「警備員の賃金が上がったので単価の協議を」という申し入れを、委託事業者は無視できなくなりました。
④買いたたきの禁止。通常の対価に比べ著しく低い代金を不当に定めることが禁止されています。
⑤受領拒否・不当なやり直しの禁止。
適用対象は、資本金基準に加えて従業員基準(役務提供委託等は常時使用する従業員100人)が追加され、いずれかを満たせば対象になります。詳細は公正取引委員会の公表資料をご確認ください。罰則は、勧告・指導のほか50万円以下の罰金です。
なお、建設工事の請負については建設業法が別途規律しており、警備の委託がどの法律の適用を受けるかは、契約の実態により判断されます。個別の判断は、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口をご利用ください。
ファクタリングの審査は、売掛先(元請)の信用力が中心になります。自社の財務内容ではありません。ここが融資との決定的な違いです。
警備会社の売掛先は、大手ゼネコン・商業施設の運営会社・イベント主催者・官公庁であることが多く、信用力の高い部類に入ります。さらに、警備実施報告書によって役務の履行が客観的に証明でき、請求金額も確定しています。通帳に同じ元請からの継続的な入金履歴があれば、取引の実在性も示せます。
つまり、警備業は「ファクタリングが機能する条件」を、すべて満たしやすい業種です。飲食業や美容業のような日銭商売には、そもそも売掛金がありません。
したがって、高い手数料を提示されたら、その理由を聞いてよいと考えます。「売掛先が大手ゼネコンで、警備実施報告書もあり、入金履歴もあります。なぜこの手数料になるのですか」。この質問に納得できる説明ができない業者は、避けたほうがよいでしょう。
見積書を受け取ったら、手数料率ではなく「手取りが何円か」を確認してください。事務手数料・債権譲渡登記の実費・司法書士報酬が別建てで乗ることがあります。複数社から相見積もりを取ることも有効です。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(令和6年)によると、警備員の平均月収は26万8,300円で、全職種平均の33万0,400円を大きく下回ります。差は月6万円以上、年間で75万円近くになります。この差がある限り、人は集まりません。実際、警備業の人手不足感は、正社員・非正社員とも約9割に達しています(2025年)。
手順は3つです。①書面(メール)で「価格協議の申し入れ」をする。取適法(2026年1月1日施行)は、価格協議に応じない一方的な代金決定を禁止しました。記録に残る形で行うことが重要です。②根拠資料を添える。上記の公表統計、最低賃金の改定、社会保険料率の推移など、客観的な数字を示します。③それでも応じない場合、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口を使う。匿名での情報提供も受け付けています。
そして、経営判断としてもう一つあります。その元請の現場で、本当に利益が出ているかを原価計算で確認してください。1人1日あたりの請負単価 −(日給+法定福利費+交通費+管理費)。法定福利費(会社負担分は給与の約15%前後)を入れ忘れると、赤字の現場が黒字に見えます。
赤字の現場を減らすことは、単価交渉と同じ効果を持ちます。そして、こちらには相手の同意が要りません。
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まとめ
警備業の資金繰りは、一行で説明できる。
警備員の給与は毎月出る。入金は、2か月後だ。
そして、警備業の売上原価は、そのほとんどが人件費だ。
材料費なら、仕入先を変える工夫がある。
人件費には、それがない。
人を配置すれば、給料は必ず出る。
——だから、逆説が生まれる。
大型現場を取るほど、先に払う人件費が増える。
隊員20名を配置すれば、20名分の給与が翌月から出ていく。
入金は、2か月後だ。
受注を喜んだ2か月後に、給与が払えなくなる。
——これが、警備業の典型的な詰み方だ。
そして、給与だけは、どんなことがあっても落とせない。
1日でも遅れれば、警備員は辞める。
人手不足の業界で、給与遅配は、即座に現場の崩壊を意味する。
——数字を、もう一度書く。
警備員の平均月収26万8,300円。
全職種平均33万0,400円。
その差が、人手不足の正体だ。
2025年上半期の警備業の倒産は16件で、前年同期から倍増。
うち少なくとも5件が、人手不足を要因としている。
仕事がなくて倒れたのではない。
人が、いなかった。
——人を集めるには、賃金を上げるしかない。
賃金を上げるには、単価を上げるしかない。
すべては、単価交渉に戻ってくる。
そして2026年1月、取適法が施行された。
役務提供委託も、対象だ。
支払期日は、受領日から60日以内。
手形の交付は、禁止。
買いたたきも、禁止。
価格協議に応じない一方的な代金決定も、禁止。
単価交渉は、いま、法律に支えられている。
——最後に、警備業の強みを書く。
あなたには、明確な売掛金がある。
売掛先は、大手ゼネコン、商業施設、官公庁。
信用力の高い組織だ。
ファクタリングの審査は、売掛先の信用力が中心になる。
だから、あなたの手数料は、本来、低い側に出るはずだ。
高い手数料を提示されたら、理由を聞いてよい。
それは、あなたの権利だ。
——ただし、それは時間を買う手段でしかない。
構造を直す手段は、単価の交渉だけだ。
順序を、間違えないでほしい。
・公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」リーフレット
・中小企業庁「2026年1月施行!〜下請法は取適法へ〜 改正ポイント説明会」資料
・帝国データバンク「『警備業』の倒産動向(2025年上半期)」
・東京商工リサーチ「『警備業』倒産 20年間で最多ペースの20件」
・帝国データバンク「倒産集計 2026年上半期報(1月〜6月)」
・厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和6年)
・金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」
・金融庁「登録貸金業者情報検索サービス」
・e-Gov 法令検索「貸金業法」
・日本政策金融公庫「金利情報」
・中小企業庁
相談窓口
金融庁 金融サービス利用者相談室:0570-016811/日本貸金業協会 貸金業相談・紛争解決センター:0570-051051/警察相談専用電話:#9110/消費者ホットライン:188
監修:黒岩 智之(くろいわ ともゆき)
事業再生コンサルタント/中小企業の資金調達支援18年。地方銀行の融資審査部に9年在籍後、独立。これまで1,200社超の資金繰り相談に対応。建設・製造・運送・医療介護分野の資金調達を専門とする。
