調剤薬局の資金繰り|2026年度診療報酬改定と、倒産38件の内訳
この記事の結論
- 2025年の調剤薬局の倒産は38件(前年比+35.7%)で、2年連続の過去最多。だが、本当に読むべきは内訳だ。負債1億円未満が29件=構成比76.3%。
- つまり、倒産しているのは小規模店だけだ。大手・中堅はM&Aで再編されている。業界が縮んでいるのではなく、業界の中で「誰が残るか」が決まりつつある。
- 調剤薬局の資金繰りは、三重苦の構造にある。①医薬品の仕入代金は先に払う ②在庫として棚に寝る ③調剤報酬は約2か月後に入る。現金は、常にこの3つに引っ張られている。
- 2026年度の薬価改定は▲0.87%(2026年4月1日施行)。薬価が下がるということは、手元の在庫の価値が下がるということでもある。仕入れたときの値段と、売るときの薬価が違う。ここに薬価差益の縮小が効いてくる。
- 調剤薬局の資金繰りを測る物差しは、棚卸資産回転日数だ。在庫が何日分の売上に相当するかを、まず計算する。ここを知らずに資金調達の話を始めても、穴は塞がらない。
2025年。
調剤薬局の倒産は38件。
前年比 +35.7%。
2年連続で、過去最多を更新した。
——だが、この数字をそのまま「薬局は危ない」と読んではいけない。
内訳を見る。
負債1億円未満が29件。
構成比、76.3%。
つまり——
倒産しているのは、小規模店だけだ。
大手・中堅は、倒産していない。
M&Aで、再編されている。
業界が縮んでいるのではない。
業界の中で、「誰が残るか」が決まりつつある。
——直視しよう。
淘汰されているのは、誰か。
1店舗、2店舗の、個人経営の薬局だ。
その理由は、きれいに説明がつく。
①薬価差益が縮小している
②在庫が資金を食う
③調剤報酬は2か月後にしか入らない
そして——
この3つはすべて、規模が小さいほど効き方が厳しい。
なぜか。
それを、この記事で書く。
目次
01倒産38件の内訳|負債1億円未満が76.3%という事実
まず、データを見る。
この図の意味を、はっきり書く。
調剤薬局業界は、縮んでいない。
処方箋の枚数が激減しているわけではない。
再編されているのだ。
大手・中堅は、M&Aで店舗を買い、規模を大きくしている。
その一方で、1店舗・2店舗の個人経営の薬局が、倒れている。
負債1億円未満が76.3%というのは、そういう意味だ。
——では、なぜ小規模店だけが倒れるのか。
構造を分解する。
誤解しないでほしい。小規模だから倒れる、と言っているのではない。小規模であることによって不利になる要因が4つある、と言っている。要因が特定できるなら、対処もできる。
- 仕入交渉力が弱い→ 共同購入グループへの加入という選択肢がある
- 在庫を融通できない→ 近隣薬局との在庫融通の関係を作る
- 不動在庫が資金を食う→ 棚卸資産回転日数を測り、金額で管理する
- 調達手段が限られる→ 公的融資のルートを、余力があるうちに確保しておく
倒産している29件の多くは、これらを「知らなかった」のではない。「測っていなかった」のだと思う。
02調剤薬局の三重苦|仕入・在庫・2か月サイト
調剤薬局の現金は、3か所で引っ張られている。
図にする。
この3つのうち、最も見落とされるのが②の在庫だ。
医薬品の在庫は、現金そのものだ。
棚に薬が並んでいる。
その薬は、すでに卸に払った金だ。
棚に置いてある薬の分だけ、通帳の残高が減っている。
——薬剤師として薬局を開いた方に、私はよくこう聞く。
「今、棚にある在庫は、金額でいくらですか」
即答できる方は、かなり少ない。
在庫の金額を把握していない薬局は、自分の現金がどこにあるかを把握していない。
——後半で、測り方を書く。
まずは、薬価差益の話をする。
03薬価差益は、なぜ縮んでいくのか
調剤薬局の利益の源泉は、2つある。
①調剤技術料・薬学管理料(=薬剤師の仕事に対する報酬)
②薬価差益(=薬を仕入れた値段と、公定の薬価との差)
このうち②が、制度的に縮んでいく仕組みになっている。
メカニズムを図にする。
図の一番下が、この記事の主題につながる。
大手は、仕入交渉力がある。
年間で何百億円という医薬品を買う会社と、1店舗の薬局とでは、卸から提示される仕入価格が違う。
同じ薬を、違う値段で仕入れている。
薬価は、どちらも同じだ。
つまり、薬価差益が、規模によって違う。
——薬価が下がるとき、その痛みは薬価差益が薄い側、つまり小規模店に先に来る。
これが、負債1億円未満の倒産が76.3%を占める理由の一つ目だ。
042026年度薬価改定▲0.87%|4月1日に何が起きたか
2026年度の診療報酬改定を整理する。
診療報酬本体:+3.09%(30年ぶりの3%超)
薬価等:▲0.87%
全体:+0.22%
そして、施行日が違う。
薬価は2026年4月1日。
診療報酬本体は2026年6月1日。
——調剤薬局にとって、この2か月のズレが効く。
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| 時期 | 何が起きるか | 資金繰りへの影響 |
|---|---|---|
| 2026年3月まで | 旧薬価で在庫を保有している | 在庫は「旧薬価に対応した仕入価格」で計上されている |
| 2026年4月1日 | 薬価改定 ▲0.87% が施行 | 手元の在庫が、改定後の薬価で売られることになる。仕入は改定前の値段だった |
| 2026年4月〜5月 | 調剤報酬本体は、まだ改定前のまま | 薬価だけが先に下がり、本体の引上げはまだ来ていない |
| 2026年6月1日 | 診療報酬本体 +3.09% が施行 | ここでようやく、技術料側の引上げが始まる |
| 2026年8月20日前後 | 6月調剤分が入金される | 本体改定の効果が、実際に通帳に現れるのはここ(約2か月遅れ) |
薬価が下がるということは、同じ薬を売っても、保険から入ってくる金額が減るということだ。
ところが、その薬を仕入れたときの支払額は、すでに確定している。改定前の値段で買っている。
- つまり、改定日をまたいで在庫を厚く持っていると、その分だけ差益が薄くなる
- だからといって、改定直前に在庫を絞りすぎると、患者が来たときに薬が出せない。薬局として、それは許されない
- この綱引きの中で、「必要最小限の在庫を、いかに回すか」が、薬局経営の中心的な課題になる
- そして、これは規模が大きいほど有利だ。複数店舗があれば、店舗間で在庫を融通できる。1店舗では、それができない
※在庫の評価方法・会計処理は、顧問税理士にご確認ください。ここでは資金繰りの観点からの一般論を述べています。
05在庫が資金を食う|棚卸資産回転日数で自己診断する
ここで、実際に手を動かしてほしい。
棚卸資産回転日数を計算する。
計算式は、これだけだ。
図の下から2段目を、もう一度読んでほしい。
在庫を10日分減らせれば、10日分の現金が手元に戻ってくる。
これは、手数料も金利もかからない資金調達だ。
——もちろん、簡単ではない。
薬が出せなければ、薬局として成り立たない。
だが、「不動在庫」はどうか。
半年以上動いていない薬。
処方が終わった患者のために取り寄せた、特殊な薬。
それは、棚で現金が眠っている状態だ。
卸への返品、近隣薬局との融通、不動在庫の一覧化。
これらは、資金調達より先にやるべきことだ。
手数料10%のファクタリングを使う前に、棚を見る。
これが順番だと、私は思っている。
資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方|銀行に出す月次表と、自分を守る日繰り表は別物に記入例まで書いた。
薬局には、在庫の欄を足してほしい。
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| チェック項目 | 確認の方法 | 改善できると |
|---|---|---|
| ①棚卸資産回転日数 | 決算書から計算する(在庫 ÷ 売上原価 × 365) | 日数を短縮した分だけ、現金が手元に戻る |
| ②不動在庫の金額 | 半年以上動いていない薬を、金額で集計する | 返品・融通・整理で、直接現金化できる可能性がある |
| ③デッドストックの発生源 | なぜその薬を仕入れたのかを、1件ずつ確認する | 発注ルールを直せば、再発を防げる |
| ④卸への支払サイト | 契約書・請求書で確認する | サイトの交渉余地があるか、卸に確認する |
| ⑤調剤報酬の入金日 | 支払基金・国保連からの入金日を、通帳で確認する | 支払日と入金日のズレを、日繰り表で把握できる |
06後発品と、在庫を厚く持たざるを得ない構造
在庫を減らせ、と書いた。
だが、簡単に減らせない事情があることも、知っている。
- ①同じ成分でも、メーカーが違えば別の在庫になる。先発品1品目に対して、後発品が複数メーカー存在する。処方元の指定や患者の希望に応えようとすると、同じ成分の薬を、複数種類そろえることになる
- ②供給が不安定な時期がある。後発品の供給に制約が生じると、「今のうちに確保しておこう」という判断が働く。この判断は、薬局として正しい。だが、資金は寝る
- ③後発品は薬価が低い。薬価が低いということは、1品目あたりの薬価差益も小さいということだ。在庫の品目数は増えるのに、そこから得られる差益は薄い
- ④在庫管理の手間が増える。品目数が増えれば、期限管理も、発注も、棚卸も、すべて重くなる。これは人件費だ
後発品の使用促進は、医療費の抑制という政策目標としては正しい。だが、その負担の一部は、薬局の在庫という形で現場が負っている。——これを「制度が悪い」で終わらせず、自分の在庫金額として数字で把握することが、経営者の仕事になる。
「在庫を減らす」を、明日から動かせる作業に落とす。
- ①不動在庫の一覧を作る。調剤システムから、直近6か月の使用実績がない薬を抽出する。品名ではなく、金額で並べる。上位20品目で、金額の大半が説明できることが多い
- ②卸に返品の可否を確認する。未開封・使用期限に余裕があるものは、返品できる場合がある(契約と医薬品の性質による)
- ③近隣薬局との融通ルートを作る。「うちで余っている薬」と「そちらで足りない薬」を交換する。これは、双方の資金繰りを改善する
- ④発注ルールを直す。不動在庫が生まれた原因を1件ずつ確認する。特殊な薬を、患者1人のために大包装で取り寄せていないか。原因を直さないと、また積み上がる
※返品の可否・在庫の評価方法・会計処理は、卸との契約および顧問税理士にご確認ください。
07調剤報酬も約2か月サイト|入金フローを刻む
調剤報酬の入金も、医療機関と同じだ。
約2か月。
最後の一行に注目してほしい。
調剤報酬債権の債務者は、社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会だ。
実質的な、公的機関だ。
支払われないという事態は、現実的に想定されていない。
——これは、資金調達において決定的な強みになる。
ファクタリングの手数料は、「業者が負う回収リスクの対価」だ。
売掛先が支払基金・国保連なら、回収リスクはほとんどない。
だから、調剤報酬債権のファクタリング手数料は、一般の企業間取引の売掛債権より、低くなるのが自然だ。
一般と同じ「手数料10%」を提示されたなら、その根拠を聞いていい。
この論点はクリニック・医療機関の資金繰り|診療報酬「2ヶ月サイト」の構造を攻略するで、数字を使って正面から扱っている。
手数料率と年率換算の関係そのものはファクタリング手数料の相場と実質年率換算表にマトリクスがある。
見積もりを取る前に、この2本を読んでおいてほしい。
商号:アクト・ウィル株式会社(東京都豊島区東池袋3-11-9/資本金5,500万円/代表 谷口友祐)
登録番号:東京都知事(5)第31521号
実質年率:年7.50%〜年15.00%/遅延損害金:年20.00%
融資可能額:同社の公表内容に不整合があるため、当サイトでは「要問い合わせ」とします。正確な金額は同社にご確認ください。
融資までのスピード:同社の公表情報に記載がありません(要問い合わせ)。
対象:法人のみ(医療・介護・調剤薬局)
返済方式・返済期間・返済回数:ご契約内容により異なります(契約書面をご確認ください)
担保・保証人:ご契約内容により異なります(詳細は同社にご確認ください)
※お借入れには審査があります。審査の結果によっては、ご希望に沿えない場合があります。
08なぜ小規模店だけが淘汰されるのか
ここまでの話を、まとめる。
負債1億円未満の倒産が76.3%を占める理由は、4つに整理できる。
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| 要因 | 大手・中堅 | 小規模店(1〜2店舗) |
|---|---|---|
| ①仕入交渉力 | 大量購入により、仕入価格を下げられる | 交渉力が弱い。同じ薬を高く仕入れる |
| ②薬価差益 | 仕入が安いぶん、差益が厚い | 差益が薄い。薬価改定の痛みが直撃する |
| ③在庫の融通 | 店舗間で在庫を回せる。デッドストックが出にくい | 1店舗で完結。不動在庫がそのまま資金を食う |
| ④後発品の品目数 | 品目数が増えても、複数店舗で分散できる | 1店舗で全品目を抱える。在庫金額が膨らむ |
| ⑤資金調達 | 銀行との取引実績があり、調達しやすい | 調達手段が限られ、条件も不利になりやすい |
| ⑥後継者 | 法人として承継できる | 薬剤師である経営者本人がいなくなると、続かない |
| ⑦出口 | M&Aで買う側に回れる | M&Aで売る側になる、という選択肢はある |
この記事は資金調達の記事だが、それだけを勧める気はない。
調剤薬局の場合、M&Aで売却するという出口が、他業種より現実的に存在する。大手・中堅が、店舗網を広げるために買い手として動いているからだ。
- 倒産すれば、患者も、従業員も、取引先も、全員が困る
- M&Aで譲渡すれば、薬局は残る。患者は薬をもらい続けられる。従業員は雇用が続く可能性がある
- そして、経営者には売却対価が残る
- ——資金繰りが厳しくなってからでは、譲渡条件は下がる。まだ体力があるうちに、選択肢として検討する価値がある
資金調達は、事業を続けるための手段だ。続ける意思があるなら、使えばいい。だが、続けること自体が目的化していないかは、一度、冷静に問い直してほしい。
09調剤薬局の資金調達|借りるか、売るか、たたむか
検討順序を、整理する。
資金調達の前に、やることがある。
図の一番下が、この記事で一番伝えたいことだ。
在庫が資金を食っている限り、いくら調達しても現金は残らない。
手数料10%で1,000万円を調達しても、在庫が1,200万円あれば、現金は寝たままだ。
そして、翌月も同じことになる。
——だから、順序を守ってほしい。
①棚を見る。
②公的融資を見る。
③銀行を見る。
④⑤は、時間がないときの手段だ。
公的支援の全体像はノンバンクの前に使うべき公的支援|セーフティネット貸付・保証協会・納税の猶予に制度ごとにまとめてある。
ビジネスローンの総支払額はビジネスローンの金利|100万・500万を借りたら総額いくら返すのか【計算表】で円単位の表にした。
ファクタリングとビジネスローンのコストの差そのものはファクタリングとビジネスローンの違い|同じ100万円でも、コストは10倍変わるにすべて書いてある。
- ①在庫を放置したまま、資金だけを調達する。在庫1,200万円を抱えたまま、手数料10%で1,000万円を調達しても、現金は在庫に吸い込まれる。翌月も、同じことになる
- ②毎月ファクタリングで、仕入代金を作る。医薬品の仕入は、毎月・確実に発生する。毎月1,000万円の債権を手数料5%で売れば、年間600万円の手数料だ。薬価差益が薄い業態で、この負担は致命的になりうる
- ③手数料の根拠を聞かないまま契約する。調剤報酬債権の債務者は支払基金・国保連であり、信用力は最高水準にある。にもかかわらず、一般の売掛債権と同じ手数料を提示されたら、「なぜこの手数料率なのか」を聞く。それだけで、相手の質が分かる
契約書の見方はファクタリング会社の選び方|悪質業者を見抜く15のチェックリストに15項目でまとめた。買戻特約・償還請求権・表明保証・公正証書が出てきたら、そこで手を止めていい。
10調剤薬局向けサービスの条件比較
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| 項目 | アクト・ウィル メディカル(ビジネスローン) | エーストラスト(ファクタリング) |
|---|---|---|
| 種別 | ビジネスローン(貸金業法に基づく貸付け) | ファクタリング(債権譲渡) |
| コスト | 実質年率 年7.50%〜年15.00% | 3社間 1.0%〜4.9%/2社間 5%〜15% |
| 遅延損害金 | 年20.00% | —(返済ではないため発生しない) |
| 金額 | 要問い合わせ(同社の公表内容に不整合があるため、当サイトでは推測しません) | 〜5,000万円(審査により1億円) |
| 速さ | 記載なし(要問い合わせ) | 最短2時間で送金 |
| 対象 | 法人のみ(医療・介護・調剤薬局) | 法人のみ |
| オンライン完結 | 不可(電話・ウェブサイトからの申込) | 2社間のみ、オンライン申込に対応 |
| 償還請求権 | —(貸付けのため概念が異なる) | 明記なし(当サイトでは推測で補いません。契約書面でご確認ください) |
| 必要書類 | 代表者本人確認書類、決算報告書の一部(損益計算書、売掛金/買掛金内訳書) | 本審査:決算書・請求書・通帳/契約時:履歴事項全部証明書・印鑑証明・住民票 |
| 登録番号 | 東京都知事(5)第31521号 | —(貸金業者ではない) |
| 向いている用途 | 医薬品の仕入資金・在庫資金など、反復的に必要になる運転資金 | 調剤報酬の入金待ちを埋める、2か月の穴 |
エーストラストの条件を見ると、3社間の手数料は1.0〜4.9%で、2社間(5〜15%)よりはっきり低い。
3社間ファクタリングは、売掛先に債権譲渡を通知し、承諾を得る方式だ。一般の企業間取引では、「取引先に資金繰りを疑われる」という理由で敬遠される。
だが、調剤薬局の売掛先は支払基金・国保連だ。民間企業のように「経営が苦しいのか」と勘繰る相手ではない。つまり、薬局は3社間を選びやすい立場にある。
1,000万円の債権なら、手数料3%(30万円)と10%(100万円)で、70万円違う。この差は大きい。
2社間と3社間の構造差はファクタリング会社の選び方|悪質業者を見抜く15のチェックリストでも扱っている。契約書のどこを見るかまで書いた。
FAQよくある質問
38件のうち、負債1億円未満が29件で、構成比76.3%です。つまり、倒産しているのは1店舗・2店舗の小規模店が中心です。
一方で、大手・中堅は倒産していません。M&Aによって再編されています。業界が縮んでいるのではなく、業界の中で「誰が残るか」が決まりつつある、というのが正確な理解です。
小規模店が不利になる理由は、明確です。①仕入交渉力が弱く、同じ薬を高く仕入れる ②その結果、薬価差益が薄い ③店舗間で在庫を融通できず、不動在庫がそのまま資金を食う ④後発品の品目数が増えても、1店舗で全部を抱える。
これらはすべて、規模の差から生まれる構造的な差です。
薬価が下がるということは、同じ薬を売っても保険から入ってくる金額が減るということです。ところが、その薬を仕入れたときの支払額は、すでに確定しています。つまり、改定日をまたいで在庫を厚く持っていると、その分だけ差益が薄くなります。
また、施行日のズレも効きます。薬価は4月に下がりましたが、調剤報酬本体の引上げが始まったのは6月です。4月・5月は、薬価だけが下がった状態でした。
さらに、6月調剤分の入金は8月20日前後になります。本体改定の効果が実際の通帳に現れるのは、施行の約2か月後です。
なお、▲0.87%は全体の改定率であり、個々の薬剤の改定率は品目ごとに異なります。在庫の評価・会計処理は、顧問税理士にご確認ください。
ですから、「在庫を一律に減らす」という話ではありません。狙うべきは不動在庫です。
まず、棚卸資産回転日数を計算してください。「棚卸資産(在庫)÷ 売上原価 × 365」で求められます。決算書があれば5分で計算できます。
次に、半年以上動いていない薬を、金額で集計してください。処方が終わった患者のために取り寄せた特殊な薬、採用をやめた薬。これらは、棚で現金が眠っている状態です。
対応としては、卸への返品(契約・医薬品の性質により可否が異なります)、近隣薬局との融通、発注ルールの見直しがあります。
在庫を10日分減らせれば、10日分の現金が手元に戻ってきます。これは、手数料も金利もかからない資金調達です。資金調達を検討する前に、まず棚を見てください。
7月に調剤した分なら、8月10日までに請求し、9月20日前後に入金されます。約2か月のタイムラグがあります。
患者の窓口負担分は調剤日に現金で入りますが、残りは2か月遅れます。その間にも、医薬品卸への支払日はやってきます。調剤薬局は売上に対する原価率が非常に高い業態であるため、この2か月の立て替えが重くのしかかります。
なお、レセプトに不備があると返戻され、入金がさらに約2か月後ろにずれます。査定減点があれば、請求額より入金額が少なくなります。
支払日の運用は、支払基金・国保連ごと、都道府県ごとに異なる場合があります。正確な日程は、各機関の公表資料をご確認ください。
ファクタリングの手数料は、業者が負う回収リスクの対価です。売掛先が支払基金・国保連であれば、回収リスクはほとんどありません。したがって、一般の企業間取引の売掛債権よりも、手数料は低くなるのが自然です。
もし一般の売掛債権と同水準の「手数料10%」を提示されたのであれば、「この手数料率の根拠を教えてください」と聞いてください。返戻・査定リスク、事務コスト、資金調達コストなど、合理的な説明ができる業者であれば、その中身を検討すればよいでしょう。説明を嫌がる業者は、見送ってよいと考えます。
また、調剤薬局は3社間ファクタリングを選びやすい立場にあります。売掛先が支払基金・国保連であり、民間企業のように「経営が苦しいのか」と勘繰られる相手ではないからです。3社間のほうが、手数料は低くなります。
金融庁は、買取代金が債権額に比べて著しく低額であるケースを、偽装ファクタリングの疑いがある事例として挙げています。
2025年の倒産38件のうち、負債1億円未満が76.3%を占める一方で、大手・中堅はM&Aによって店舗網を広げています。つまり、買い手が存在する市場です。
M&Aで譲渡すれば、薬局は残ります。患者は薬をもらい続けられ、従業員の雇用が続く可能性があります。そして、経営者には売却対価が残ります。倒産すれば、そのすべてが失われます。
ただし、注意点があります。資金繰りが厳しくなってからでは、譲渡条件は下がります。買い手は、財務内容を見て価格を決めるからです。
資金調達は、事業を続けるための手段です。続ける意思があるなら、使えばいい。だが、続けること自体が目的化していないかは、一度、冷静に問い直す価値があります。
M&Aの検討にあたっては、必ず専門の仲介会社・金融機関・税理士にご相談ください。当サイトはM&Aの仲介を行うものではありません。
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まとめ
2025年、調剤薬局の倒産は38件。
前年比 +35.7%。
だが、読むべきは内訳だ。
負債1億円未満が29件。構成比 76.3%。
倒れているのは、小規模店だけだ。
大手・中堅は倒産していない。
M&Aで、再編されている。
——業界が縮んでいるのではない。
業界の中で、「誰が残るか」が決まりつつある。
小規模店が不利になる理由は、構造的だ。
①仕入交渉力が弱い→ 同じ薬を高く仕入れる
②だから薬価差益が薄い→ 薬価改定の痛みが直撃する
③店舗間で在庫を回せない→ 不動在庫が資金を食う
④後発品の品目数が増えても1店舗で全部を抱える
2026年度の薬価改定は▲0.87%(4月1日施行)。
診療報酬本体は+3.09%(6月1日施行)。
薬価だけが先に下がった。
そして、本体改定の効果が通帳に現れるのは、施行の2か月後だ。
——この構造の中で、何ができるか。
まず、棚を見てほしい。
棚卸資産回転日数を測る。
不動在庫を金額で集計する。
在庫を10日分減らせれば、10日分の現金が手元に戻ってくる。
これは、手数料も金利もかからない資金調達だ。
そのうえで、公的融資を見る。
銀行を見る。
ビジネスローンとファクタリングは、時間がないときの手段だ。
——最後に、一つだけ。
在庫が資金を食っている限り、いくら調達しても現金は残らない。
穴の開いたバケツに、水を注ぐことになる。
だから、順序を間違えないでほしい。
棚が、先だ。
・厚生労働省(2026年度 診療報酬改定・薬価改定)
・社会保険診療報酬支払基金
・国民健康保険中央会(国民健康保険団体連合会)
・金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」
・金融庁「登録貸金業者情報検索サービス」
・e-Gov 法令検索「貸金業法」
・日本政策金融公庫「金利情報」
・独立行政法人福祉医療機構
・中小企業庁
・東京商工リサーチ「2025年 調剤薬局の倒産」
相談窓口
金融庁 金融サービス利用者相談室:0570-016811/日本貸金業協会 貸金業相談・紛争解決センター:0570-051051/警察相談専用電話:#9110
監修:黒岩 智之(くろいわ ともゆき)
事業再生コンサルタント/中小企業の資金調達支援18年。地方銀行の融資審査部に9年在籍後、独立。これまで1,200社超の資金繰り相談に対応。建設・運送・医療介護分野の資金調達を専門とする。

