人材派遣・業務請負の資金繰り|給与は先に出て、派遣料金は後から入る
この記事の結論
- 人材派遣・業務請負は、ファクタリングと構造的に相性が最も良い業種のひとつだ。理由は単純で、この業種には「売掛金」が、大量に、しかも毎月立つからだ。飲食店や美容室のように「売る債権がない」という壁がない。
- 資金ギャップは、最大で約2か月に達する。スタッフへの給与は月末締め・翌月10日払いが一般的。一方、派遣先からの入金は月末締め・翌々月末払いになることがある。給与を払ってから、その分の派遣料金が入るまで、最長で50日前後の穴が開く。
- そして、この穴は売上が伸びるほど広がる。稼働人数が増えれば、先に払う給与も増える。「売上が伸びているのに金が足りない」は、この業種では正常な現象であり、経営の失敗ではない。増収増益で資金ショートする典型業種だ。
- 社会保険料の事業主負担(労使折半)が、この穴をさらに広げている。給与に加えて、事業主負担分も先に出ていく。派遣スタッフの人数が増えるほど、負担は比例して重くなる。
- そして、この記事の核心。2026年1月1日に下請法が改正されて「中小受託取引適正化法(取適法)」になり、支払期日60日以内のルールが強化された。だが、労働者派遣は、この法律の対象外だ。公正取引委員会は「よくある質問コーナー」で、労働者の派遣を受けることは自ら用いる役務の委託であり本法の対象とはならないと明記している。つまり、派遣先から派遣元への派遣料金には、60日ルールも手形払の禁止も適用されない。派遣元は、法律に守られていない。だから、支払サイトは自力で交渉するしかない。
- 一方で、「他者に提供する役務の再委託」という構造をとる業務請負(アウトソーシング)は、役務提供委託として取適法の対象になり得る。(自社工場の清掃を委託するような自家利用の役務は対象外)。「派遣には効かないが、請負なら効く場合がある」という切り分けが、この業種の交渉の急所だ。
- 派遣先が大企業なら、ファクタリングの手数料は低く出やすい条件が揃っている。審査は売掛先の信用力を中心に見るからだ。上場企業や大手が売掛先なのに高い手数料を提示されたら、その理由を必ず聞くこと。
- 市場は拡大している。それでも倒産は急増している。厚生労働省の集計では、令和6年度の派遣事業の年間売上高は9兆9,005億円(前年度比+9.4%)。一方、東京商工リサーチによれば2025年1〜11月の労働者派遣業の倒産は82件(前年同期比+41.3%)。理由は構造にある。売上1億円未満の事業所が57.7%を占める零細業種だからだ。
10日。
派遣スタッフへの給与支払日。
この日、口座から数千万円が出ていく。
30人でも。
100人でも。
「今月は入金が遅れているので」は、通用しない。
給与は、必ず期日に払う。
——では、その原資となる派遣料金は、いつ入るのか。
早くて翌月末。遅ければ翌々月末。
つまり、給与を払ってから、その分の売上が入るまでに最大で2か月の穴が開く。
そして、この業種の最も残酷な点はここからだ。
受注が増えて、稼働人数が増えると、この穴は大きくなる。
売上が伸びる。
利益も出ている。
それなのに、金が足りない。
——多くの派遣会社の社長が、これを「自分の経営が下手だから」だと思っている。
違う。
これは、この業種の構造そのものだ。
増収増益で資金ショートする。
そういう業種なのだ。
この記事では、その構造を数字で示し、どう埋めるかを書く。
そして、この業種ではファクタリングが本来の意味で機能する理由も、正直に書く。
目次
01給与は先に出て、派遣料金は後から入る|2か月のギャップ
まず、時間軸に並べる。
この図が、人材派遣業の資金繰りのすべてだ。
この図を、派遣会社の社長は全員、体で知っている。
だが、「なぜそうなるのか」を言語化している人は少ない。
言語化すると、こうなる。
人材派遣は、「先に商品を仕入れて、後で売る」商売ではない。
「先に人件費を払い、後で回収する」商売だ。
そして、この立て替えている金額は、貸借対照表のどこにも「危険」とは書いていない。
売掛金として、資産に計上されている。
だが、その資産では今日の給与は払えない。
これが、黒字倒産の最も典型的な形だ。
「黒字なのに金がない」構造の全体像は資金繰りが悪化する7つの原因|黒字なのに金がない構造で7つに分けて整理した。
人材派遣は、そのうち「増加運転資金型」の教科書的な事例になる。
紙とペンで、3分でできます。
①月あたりの給与支払総額(社会保険料の事業主負担を含む)を書く。
②給与支払日から、その月の派遣料金が入金される日までの日数を書く(契約書の支払条件を見る)。
③ ①×(②÷30)= 常時、自社が立て替えている金額。
この金額が、手元資金+当座貸越の枠を超えていたら、それは「いつか必ず詰まる」状態です。
受注が増えれば、①が増えます。つまり、この数字は成長するほど大きくなります。
02★取適法の「60日ルール」は、派遣には届かない
ここが、この記事の背骨だ。
2026年1月1日、下請法が改正され、名前が変わった。
中小受託取引適正化法(取適法)。
支払期日は60日以内。
手形払いは禁止。
一方的な代金の決定も禁止された。
中小企業を守るための法律が、強くなった。
ここで、多くの派遣会社の経営者がこう考える。
「これで、派遣料金の入金も守られる」
——違う。
労働者派遣は、この法律の対象外だ。
推測ではない。
公正取引委員会が、公式サイトの「よくある質問コーナー」で明確に答えている。
Q4 労働者の派遣を受けることは、本法の対象となるか。
A. …労働者の派遣は自社の業務のために派遣を受けるものであるので、自ら用いる役務の委託として本法の対象とはならない。また、派遣された労働者との間では自らの指揮命令の下で業務を行わせているものであることから、あくまで事業者が自ら業務を行っていることとなり、委託取引とはならず、本法の対象とはならない。
出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(中小受託取引適正化法関係)」
読み替えると、こうなる。
派遣先から派遣元への派遣料金の支払いには、「60日以内」という上限を強制する法律がない。
手形払いを禁じる規定もない。
派遣元は、法律に守られていない。
これが、この業種の資金繰りが構造的に苦しい、いちばん深い理由だ。
給与は労働基準法で守られている。
毎月1回以上、一定の期日に、全額を払わなければならない。
だが、入金の側には、それを守る法律がない。
出ていく側だけが、法律で固定されている。
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| 取引の形 | 取適法の適用 | 支払期日60日以内のルール | 実務上の意味 |
|---|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・運送委託 | 対象 | 適用される | 法律を根拠に、サイト短縮を求められる |
| 役務提供委託(他者に提供する役務の再委託) =業務請負・アウトソーシングの一部 |
該当し得る | 適用され得る | 契約の実態によるが、交渉の材料になる |
| 労働者派遣 | 対象外 | 適用されない | 法律で守られない。契約交渉で決めるしかない |
| 自家利用の役務(自社工場の清掃委託など) | 対象外 | 適用されない | 自社のための役務は委託取引にあたらない |
- ①「請負」の部分があるなら、そこは別の話になる。同じ取引先に、派遣と業務請負の両方を提供している会社は少なくありません。他者に提供する役務の再委託にあたる請負部分は、役務提供委託として取適法の対象になり得ます。契約書の建て付けを、一度、弁護士に確認してください。
- ②派遣の支払サイトは、契約交渉でしか動かない。法律の後ろ盾がない以上、「月末締め翌々月末」を「月末締め翌月末」に変えるには、更新時の交渉しかありません。取引を継続している実績と、代替の効かない人材を出しているという事実が、唯一の交渉材料です。
- ③それでも埋まらない穴は、資金調達で埋める。ここで初めて、公庫・保証協会・ファクタリングの話になります。順番は、①→②→③です。③から始めると、手数料を払い続けながら、構造は何も変わりません。
なお、相談サイトには「派遣料金の未払いに下請法が使えるのではないか」という趣旨の相談が実在します(教えて!goo の該当質問)。この誤解は、いまも解けていません。
03売上が伸びるほど、穴は広がる|増収時の資金ショート
ここが、この業種の最も重要な論点だ。
普通の商売では、売上が伸びれば資金繰りは楽になる。
人材派遣は、逆だ。
売上が伸びるということは、稼働するスタッフが増えるということ。
稼働が増えれば、先に払う給与が増える。
そして、その分の入金は2か月後だ。
つまり、成長するほど立て替え額が膨らむ。
図で見る。
この構造が、何を意味するか。
「大型案件を受注しました」
——それは、「近い将来、資金が詰まります」という意味だ。
50名の派遣先から、新たに30名の追加要請が来た。
売上は6割増える。
だが、その30名分の給与を、最初の2か月間、自社が立て替える。
この金を用意できない会社は、案件を断るしかない。
——これが、中小の派遣会社が大きくなれない理由だ。
受注できる案件はある。人も集められる。だが、資金がない。
成長の天井が、資金繰りで決まっている。
だからこそ、この業種では「売掛金を先に現金化する」という手段が、本来の意味で機能する。
売る債権が、そこにあるからだ。
受注判断の前に、この3つを紙に書いてください。
①その案件で増える月あたりの給与総額(社会保険料の事業主負担を含む)
②その派遣先の支払サイト(契約書を見る。月末締め翌月末か、翌々月末か)
③ ①×(②の月数)= 追加で必要になる立て替え資金
この金額を用意できないなら、受注してはいけません。受注してから慌てて資金を探すと、条件の悪い調達に飛びつくことになります。
資金調達の準備は、受注の前に行う。これが、伸びる派遣会社と、途中で消える派遣会社の違いです。
- 支払サイトの短縮を交渉する。月末締め翌々月末を、翌月末に。これが通れば、資金ギャップは1か月縮みます。手数料はゼロです。継続取引がある派遣先なら、交渉の余地があります。
- 請求書を、締め日の翌営業日に出す。請求が遅れれば、その分だけ入金も遅れます。月初の数日を無駄にしていないか、社内の運用を確認してください。
- 不採算案件を切る。派遣料金と給与の差額が薄い案件は、稼働させるほど立て替え額だけが増えます。売上は増えても、資金繰りは悪化します。案件別の粗利を、必ず算出してください。
04市場は+9.4%で拡大。倒産は+41.3%で急増|零細構造の帰結
前の章で書いた「成長そのものが資金需要を生む」構造は、業界全体の数字にも表れている。
厚生労働省が2026年3月31日に公表した「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和6年度)を見てほしい。
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| 指標(令和6年度) | 数値 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 派遣労働者数 | 約220万人 | +3.9% |
| 年間売上高(市場規模) | 9兆9,005億円 | +9.4% |
| 派遣料金(8時間換算・税込) | 26,257円 | +3.6% |
| 派遣労働者の賃金(8時間換算) | 16,735円 | +3.4% |
| 売上1億円未満の事業所 | 57.7%(19,164所) | — |
市場は、9兆9,005億円。
前年度比 +9.4%。
派遣労働者数も、派遣料金も、賃金も、すべて上がっている。
では、なぜ倒産が増えているのか。
東京商工リサーチの2025年1〜11月の集計。
労働者派遣業の倒産 82件。前年同期比 +41.3%。
負債総額は76億5,000万円(+28.1%)。
そのうち破産が79件(96.3%)を占める。
再建型ではなく、消滅している。
帝国データバンクの2025年1〜8月の集計でも59件(+55.3%)で、同社は通年で「90件前後・過去最多を更新する可能性」と見通していた。
市場は+9.4%。倒産は+41.3%。
この矛盾の答えは、同じ厚労省の資料の中にある。
売上1億円未満の事業所が57.7%(19,164所)。
この業種の過半数は、零細である。
そして零細ほど、給与と社会保険料の先出しに耐えられない。
市場が伸びるほど、受注は増え、立て替え額は増え、資金の薄い会社から順に落ちていく。
これが、「市場拡大+倒産急増」の正体だ。
2026年10月1日、派遣法の関係規則・指針が改正される
もうひとつ、先回りして書いておくべきことがある。
労働者派遣法の施行規則と、関係告示(派遣元指針・派遣先指針・同一労働同一賃金ガイドライン)が改正された。
2026年6月5日公布、2026年10月1日施行。
内容の柱は2つ。
①雇入れ時・派遣時の明示事項に、「待遇の相違の内容および理由等について説明を求めることができる旨」が追加される。
②同一労働同一賃金ガイドラインが、さらに明確化される。
これは、資金繰りの記事になぜ関係するのか。
説明義務が増えるということは、待遇差の説明ができない賃金設計は維持しにくくなる、ということだ。
つまり、人件費は下方向に硬直する。
出ていく金は、また固定された。
それでも、入ってくる金(派遣料金の支払サイト)を縛る法律は、依然として存在しない。
この非対称は、2026年10月以降、さらに強まる。
だから、支払サイトの交渉を、今のうちに始めてほしい。
05社会保険料の事業主負担が、穴をさらに広げる|2026年度の実数
給与の話だけでは、半分しか語っていない。
社会保険料の事業主負担がある。
健康保険、厚生年金保険。
これらは労使折半だ。
つまり、従業員が給与から天引きされる額と同じ額を、会社も払っている。
さらに、雇用保険と労災保険。
これらにも事業主の負担がある。
派遣スタッフの人数が増えるほど、この負担は比例して重くなる。
2026年度(令和8年度)の料率で、事業主負担を計算する
「社会保険料の事業主負担」という言葉は、どの記事にも出てくる。
だが、それが給与の何%なのかを数字で書いている記事は、ほとんどない。
2026年度の料率で、実際に積み上げる。
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| 保険料 | 2026年度(令和8年度)の料率 | 事業主の負担分 |
|---|---|---|
| 健康保険(協会けんぽ・医療分) | 全国平均 9.90% (令和7年度の10.00%から0.1%引下げ=34年ぶりの引下げ) |
4.95% |
| 子ども・子育て支援金(2026年4月 新設) | 0.23% | 0.115% |
| 介護保険(40〜64歳のみ) | 1.62% | 0.81% |
| 厚生年金 | 18.300% | 9.150% |
| 雇用保険(一般の事業) | 13.5/1,000(令和7年度の14.5/1,000から引下げ) | 0.85% |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 0.36%(全額が事業主負担) |
| 事業主負担の合計(労災保険を除く) | 40歳未満 約15.4%/40〜64歳 約16.2% | |
計算してみる。
月給25万円の派遣スタッフが1人。
事業主負担は、40歳未満で約15.4%。
つまり、約3万8,500円。
給与と合わせて約28万8,500円。
これが、派遣先から1円も入ってこないうちに、現金で出ていく。
10人稼働なら、月に約290万円。
50人稼働なら、月に約1,440万円。
支払サイトの分布を示す公的な統計は存在しない。
だから、「一般に、給与の支払いが入金より10〜45日以上先行する」としか書けない。
だが、はっきりしていることがひとつある。
その支払サイトの上限を強制する法律が、派遣には存在しない。
だから、この穴は放っておいても埋まらない。
はっきり書く。
社会保険料の滞納は、派遣会社にとって致命傷になり得る。
理由は3つ。
第一に、年金事務所は待ってくれない。
督促、そして差押えに進む。
第二に、労働者派遣事業の許可には財産的基礎の要件がある。
社会保険への適正な加入も、事業者としての基本的な要件だ。
滞納は、許可の更新において不利に働き得る。
第三に、銀行が融資を止める。
決算書に「未払社会保険料」が大きく計上されていれば、それは「資金繰りが破綻寸前」というシグナルとして読まれる。
税金・社会保険料の滞納が融資審査にどう響くか、そして年金事務所とどう交渉するかは、税金・社会保険料の滞納と融資|年金事務所との交渉に手順を書いた。
滞納する前に、読んでほしい。
「今月だけ、社会保険料を待ってもらおう」
——この判断が、派遣会社を殺す。
どうしても払えない見通しが立ったら、滞納が発生する前に年金事務所に相談してください。
事情によっては、納付の猶予について相談できる場合があります。事後に相談するのと、事前に相談するのでは、対応が変わります。
やってはいけないのは、「連絡せずに、黙って払わない」ことです。督促状が届いてから動くと、選択肢が大きく減ります。
そして、決算書に「未払社会保険料」が大きく計上された時点で、銀行の与信判断は変わります。その決算書は、向こう1年間、あなたの会社の名刺として使われ続けます。
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| 先に出ていく金 | 支払のタイミング | 遅らせられるか | 遅らせた場合の影響 |
|---|---|---|---|
| スタッフへの給与 | 月末締め・翌月10日払いが一般的 | 遅らせられない | スタッフの離職。労働基準法上の問題に直結する |
| 社会保険料(事業主負担) | 原則として毎月 | 遅らせるべきではない | 年金事務所の督促・差押え。派遣事業の許可・銀行融資に影響し得る |
| 源泉所得税・住民税の納付 | 原則として翌月10日(特例あり) | 遅らせるべきではない | 不納付加算税・延滞税が発生する |
| 事務所家賃・システム利用料 | 月次 | 交渉の余地はある | 信用の低下。契約条件による |
| 採用広告費・求人媒体費 | 掲載時・月次 | 調整できる | 採用数が落ちる。だが、資金が尽きるよりはよい |
| 役員報酬 | 月次 | 経営判断で調整できる | 期中の減額には税務上の制約がある。税理士に確認すること |
06なぜこの業種は、ファクタリングと相性が良いのか
正直に書く。
私は、すべての業種にファクタリングを勧めているわけではない。
飲食店には「原則として使えない」と書いた。
美容室にも同じことを書いた。
売掛金がないからだ。
だが、人材派遣は違う。
この業種は、ファクタリングが本来想定している使い方に、最も近い。
理由を4つ挙げる。
4つ目が、特に重要だ。
仕入先への支払いは、頭を下げれば1か月待ってもらえることがある。
だが、給与は待てない。
10日に払う。
1日でも遅れれば、スタッフは離れる。
そして、労働基準法上の問題にもなる。
つまり、この業種の資金需要には「期日」がある。
期日がある資金需要には、「間に合うかどうか」が最優先の判断軸になる。
公庫や制度融資は金利が安い。
だが、制度融資は申込みから実行まで2〜3か月かかる。
10日後の給与には間に合わない。
——この現実を踏まえたうえで、手段を選ぶ。
ファクタリングの仕組みそのものはファクタリングとは|仕組みと種類を図解に、会社の選び方はファクタリング会社の選び方|15のチェックリストにまとめた。
07派遣先が大企業なら、手数料は低く出るはずだ
ここは、経営者に持ってほしい相場観の話だ。
ファクタリングの審査は、「利用者の財務内容」ではなく「売掛先の信用力」を中心に見る。
なぜか。
業者が回収する相手は、あなたではなく、売掛先だからだ。
売掛先が倒れなければ、業者は回収できる。
つまり、売掛先が大企業なら、業者が負うリスクは小さい。
リスクが小さいなら、手数料も低く出るのが道理だ。
——ここで、派遣業を思い出してほしい。
派遣先は、誰か。
製造業の大手工場。
物流センター。
コールセンターを持つ大手企業。
上場企業であることも多い。
これは、ファクタリングの世界では「最も条件が良く出るはずの売掛先」だ。
ここで、実務的な助言を書く。
見積書を受け取ったら、手数料率ではなく「手取りいくらか」を円で確認する。
事務手数料。
債権譲渡登記の実費。
司法書士報酬。
振込手数料。
これらが別建てで乗ることがある。
「手数料5%」と言われても、諸費用を足すと実質的な負担が変わってくる。
円で確認する。
そして、相見積もりを取る。
売掛先が大手なら、複数社が取りたがるはずの案件だ。
1社目の提示をそのまま飲む理由が、どこにもない。
手数料の相場観と、それを他の調達手段と比べるための物差しはファクタリング手数料の相場と実質年率換算表に、支払サイト別のマトリクスとしてまとめた。
ここで1つ、正確に書いておく。
ファクタリングの手数料は、金利ではない。
債権の売買であって、貸付けではないため、利息制限法・出資法の上限金利は直接には適用されない。
ただし、他の資金調達手段とコストを比べるための物差しとして年率に換算してみると、負担の大きさが見える。
この換算は、業者を非難するための数字ではない。
「この取引は、そもそも合法なファクタリングなのか」を見抜くための物差しだ。
金融庁は、買取代金が債権額に比べて著しく低額であるケースは偽装ファクタリングの疑いがあるとしている。
- 「手取りは、円でいくらですか」——手数料率ではなく、実際に振り込まれる金額を聞く。
- 「事務手数料・登記費用・司法書士報酬は、この中に含まれていますか」——別建てなら、その額も足して比較する。
- 「償還請求権はありますか」——売掛先が払わなかった場合に、自社が買い戻す義務があるか。ノンリコースであることを、契約書の条文で確認する。
- 「債権譲渡登記は必要ですか」——登記をすると、登記事項証明書を取得した第三者に譲渡の事実が分かる可能性がある。
- 「この手数料になった理由を、書面でいただけますか」——説明できない業者とは、契約しない。
082社間か、3社間か|派遣先に知られることの意味
派遣業には、特有の事情がある。
派遣先との関係は、継続的だ。
そして、契約の更新がある。
「あの派遣会社、資金繰りが苦しいらしい」
——この評判が立つことを、経営者は恐れる。
だから、3社間ファクタリング(売掛先に通知して承諾を得る方式)を避けたがる。
その感覚は、理解できる。
だが、冷静に整理してほしい。
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| 比較軸 | 2社間ファクタリング | 3社間ファクタリング |
|---|---|---|
| 売掛先への通知 | 原則として行われない | 通知し、承諾を得る |
| 手数料の水準 | 高くなる傾向(業者のリスクが大きいため) | 低くなる傾向 |
| 入金までの速度 | 速い(売掛先の手続きが不要) | 売掛先の承諾を待つため、時間がかかる |
| 債権譲渡登記 | 求められることがある(法人のみ可能) | 不要なことが多い |
| 回収の流れ | 売掛先から自社に入金され、自社が業者に送金する | 売掛先から業者へ直接入金される |
| 派遣業での使いどころ | 取引の継続性を最優先する場合 | 売掛先の理解が得られる場合、または手数料を抑えたい場合 |
ここで、一度発想を転換してみてほしい。
派遣先の立場に立ってみる。
大手企業の購買担当者や人事担当者は、何を気にしているか。
「その派遣会社が、来月も人を出してくれるかどうか」だ。
派遣会社が資金繰りに失敗して給与を払えなくなり、スタッフが一斉に辞めたら——
困るのは、派遣先の現場だ。
つまり、派遣会社が資金を安定させる努力は、派遣先にとっても利益になる。
これは、隠すべき恥ではない。
もちろん、理解のある相手ばかりではないだろう。
判断は、売掛先ごとに変える。
大手で、担当者との関係が良好で、支払サイトの短縮を交渉できる相手なら、そもそもファクタリングより「支払サイトの交渉」が先だ。
月末締め翌々月末を、月末締め翌月末にしてもらえないか。
これが通れば、資金ギャップは1か月縮む。
手数料はゼロだ。
2社間と3社間の違い、それぞれのリスクは2社間ファクタリングと3社間の違い|通知と手数料で詳しく分解した。
09借りるべきか、売るべきか|判断の分かれ目
判断軸は、1つしかない。
その資金需要は、「時間の穴」なのか、「構造の穴」なのか。
時間の穴とは、入金が来るまでのつなぎだ。
売掛金は、そこにある。
入金日も決まっている。
ただ、給与の支払日が先に来る。
これは、時間の穴だ。
構造の穴とは、そもそも利益が出ていない状態だ。
派遣料金と給与の差額(粗利)が、固定費と社会保険料を賄えていない。
この場合、資金を入れても穴は埋まらない。
埋まらないどころか、手数料の分だけ深くなる。
最も危険なのは、「毎月足りないのに、毎月ファクタリングを使う」状態だ。
派遣業の粗利率は、決して高くない。
派遣料金から給与と社会保険料を引くと、残りは薄い。
その薄い粗利から、毎月ファクタリングの手数料を払い続けたら、何が起きるか。
利益が消える。
そして、翌月にはさらに大きな額を売らざるを得なくなる。
これが、複数社を使い始める入口だ。
ファクタリングを複数社で使っている状態からの出口に、そこから抜ける手順を書いた。
すでに2社以上使っているなら、先にそちらを読んでほしい。
恒常的な資金ギャップには、恒常的な手を打つ。
具体的には——
増加運転資金として、公庫や信用保証協会付きの融資枠を確保する。
銀行の当座貸越枠を設定する。
これは、「借金をする」のではなく「立て替え資金の土台を作る」ことだ。
派遣業の成長には、この土台が要る。
まとまった額の調達については1億円以上の大口資金調達|銀行・保証協会・ノンバンクの使い分けに、公的支援の全体像はノンバンクの前に使うべき公的支援|公庫・保証協会・マル経にまとめた。
ビジネスローンの金利と総支払額の実際はビジネスローンの金利|総支払額シミュレーションで計算している。
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| 資金需要の性質 | 適した手段 | 理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 10日後の給与が足りない(今月だけ) | ファクタリング | 売掛金があり、入金日も確定している。時間だけを買えばよい | 手数料は使うたびに発生する。繰り返さない前提で使う |
| 受注拡大で、立て替え額が恒常的に増えた | 増加運転資金の融資(公庫・保証協会) | 構造的な資金需要には、構造的な調達で応じる | 実行まで時間がかかる。受注の前に動く |
| 季節変動で、特定の月だけ膨らむ | 当座貸越枠・短期融資 | 必要なときだけ引き出せる枠を持つ | 枠の設定には審査と時間が必要 |
| 粗利が固定費を賄えていない | 資金調達では解決しない | 構造の穴。入れた資金は、手数料の分だけ減って消える | 派遣料金の値上げ交渉、または不採算案件からの撤退が先 |
| 社会保険料が払えない | 最優先で対処する | 滞納は許可・融資・信用のすべてに響く | 滞納する前に、年金事務所に相談する。事後では選択肢が減る |
公庫や銀行の窓口で、資金の使い道を説明するとき。
「資金繰りが苦しいので」と言うと、後ろ向きの資金需要として受け取られます。
「受注が増え、稼働人数が◯名から◯名になります。給与の支払いが入金より先行するため、増加運転資金として◯◯万円が必要です」——こう言えば、前向きな資金需要になります。
同じ金額でも、説明の仕方で審査の見え方が変わります。そして、この説明を裏づけるのが、契約書のコピーと、あなたが計算した立て替え額の一覧です。
紙を持っていく。これが、通る申込みと通らない申込みの差です。
10派遣会社が資金繰りで倒れる、典型的な順序
18年、この仕事をしてきて、派遣会社が倒れるときの順序は、だいたい決まっている。
逆算して書く。
失敗した会社が、共通して怠っていたことを、時系列で並べる。
FAQよくある質問
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まとめ
人材派遣の資金繰りは、経営者の努力の問題ではありません。
構造の問題です。
給与は翌月15〜25日に出ていく。社会保険料も、給与の約16%が同時に出ていく。
そして派遣料金が入るのは、その1〜2か月後。
売上が伸びるほど、この立替は膨らみます。
そのうえで、知っておいてください。
2026年1月に施行された取適法は、支払期日60日以内を義務づけました。
しかし公正取引委員会は明言しています。労働者派遣は、本法の対象とはならないと。
派遣元は、この法律に守られていません。
だから、契約の段階で支払期日を自分で決めにいく。
それが、この業種で生き残るための最初の一手です。
・公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」Q4
・公正取引委員会「中小受託取引適正化法」リーフレット
・厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和6年度)
・全国健康保険協会「令和8年度の保険料率」
・東京商工リサーチ「人材派遣業の倒産動向」
・厚生労働省「労働者派遣事業」※2026年10月1日施行の改正を含む
監修:黒岩 智之(くろいわ ともゆき)
事業再生コンサルタント/中小企業の資金調達支援18年。地方銀行の融資審査部に9年在籍後、独立。これまで1,200社超の資金繰り相談に対応。建設・運送・医療介護分野の資金調達を専門とする。

