手形割引・でんさい割引|紙の手形が2027年3月に消える前に

ビジネスローン・融資
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手形割引・でんさい割引|紙の手形が2027年3月に消える前に

公開日 2026年7月13日|最終更新 2026年7月13日
監修:黒岩 智之
事業再生コンサルタント/中小企業の資金調達支援18年
元・地方銀行 融資審査部(9年)/相談実績1,200社超
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この記事の結論

  • 紙の約束手形・小切手は、2026年度末(2027年3月末)をめどに廃止される。全国銀行協会は、電子交換所での手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを目標に掲げている。この記事を読んでいる時点で、残りは約8か月
  • さらに、2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法)により、委託事業者が中小受託事業者に手形を交付することは禁止された。つまり、そもそも手形は「もらえなくなる」方向にある。
  • 手形割引とファクタリングの最大の違いは、償還請求権(遡求権)の有無。手形が不渡りになれば、割り引いてもらった側に買戻しの義務が生じる。ノンリコース契約のファクタリングには、これがない。
  • 「1,000万円の手形割引で費用は約10万円。ファクタリングは100万円で20万円だった」——この差は、①割引料が年率×期間で計算されるのに対し、手数料は1回あたりの率であること ②不渡りリスクを誰が負うかの2点で説明できる。
  • でんさい(電子記録債権)は継続する。ただし、でんさいの譲渡にも、原則として電子記録保証が伴うため、手形と同様に「遡って請求される」構造は残る。

知恵袋に、こういう声がある。

「1,000万円の手形を割ったら、費用は10万円だった。

ファクタリングで100万円売ったら、手数料は20万円だった。

何なんだ、この差は」

——温度感は、こんな感じだ。

金額は10分の1なのに、手数料は2倍。

実に、20倍の差。

これは、業者が悪いのだろうか。

違う。

この差には、理由がある。

そして、その理由が分かれば、「なぜファクタリングは高いのか」という問いに、一発で答えが出る。

答えは2つある。

一つは、計算方法が違うから。

割引料は年率で計算し、満期までの日数で按分する。

ファクタリングの手数料は1回あたりの率だ。

もう一つ——こちらが本質だが——

リスクを、誰が負っているかが違う。

手形割引には、償還請求権がある。

つまり、その手形が不渡りになったら、あなたが買い戻す。

ファクタリング(ノンリコース契約)には、それがない。

売掛先が倒れても、あなたに請求は来ない。

安いのには、理由がある。

高いのにも、理由がある。

——そして、この記事にはもう一つ、急ぐ理由がある。

紙の約束手形は、2027年3月末で消える。

この記事を読んでいる時点で、残り約8か月だ。

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘や、投資・法務・税務に関する助言を行うものではありません。割引料・手数料の水準は各金融機関・各業者により異なり、掲載している数値は2026年7月時点の一般的な相場観です。制度・スケジュールは変更されることがあります。実際の取引にあたっては、必ず各社の契約書面をご確認いただき、必要に応じて弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。手形割引・ファクタリングいずれも審査があります。ファクタリングの手数料は金利ではなく、債権売買の対価です。

012027年3月末|紙の手形は、なくなる

まず、事実から確認する。

政府は2021年6月の「成長戦略実行計画」で、5年後の約束手形の廃止に向けた取組みを推進する方針を示した。

これを受けて、全国銀行協会は、2026年度末(2027年3月末)までに、電子交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを目標に掲げている。

つまり——

2027年3月末をもって、紙の手形・小切手を銀行で取り立てる仕組みが終わる方向にある。

これは、遠い未来の話ではない。

今日は2026年7月13日。残りは約8か月だ。

約束手形の廃止に向けた時系列と、2027年3月末までの残り期間 紙の手形が消えるまでの、時系列

2021年6月 成長戦略実行計画 「5年後の廃止」

2026年1月1日 取適法 施行 手形の交付が禁止

2026年7月(今) 移行の最終局面 まだ「廃止済み」ではない

2027年3月末 交換枚数ゼロが 目標

残り 約8か月

手形を「受け取る側」は、資金化の手段を切り替える必要がある 手形割引という資金調達手段そのものが、実務から退場していく

代替は、でんさい(電子記録債権)・振込・ファクタリング

図1:約束手形の廃止までの時系列。2026年7月時点で、廃止期限まで残り約8か月。すでに「手形の交付」は取適法で禁止されている。

▲ 誤解しないでほしいこと
  • 2026年7月時点で、紙の手形はまだ「廃止済み」ではありません。移行の最終局面にある、という段階です。
  • 手形法という法律そのものが廃止されるわけではありません。銀行が電子交換所で手形・小切手を交換する仕組みを終える——という趣旨です。
  • ただし、実務上は「銀行で取り立てられない手形」は、手形として機能しません。結果として、紙の手形は使えなくなっていきます。
  • 詳細は全国銀行協会「紙の手形・小切手利用廃止へ」で確認してください。

02取適法(2026年1月施行)で、手形の交付は禁止された

廃止のスケジュールとは別に、もう一つ、決定的な変化が起きている。

取適法——正式名称は「中小受託取引適正化法」。

2026年1月1日に施行された。

これは、従来の下請法を改正・改称したものだ。

そして、この法律は中小企業の資金繰りに直接効く条項を持っている。

手形の交付が、禁止された。

つまり——

委託事業者(従来の親事業者)が、中小受託事業者(従来の下請事業者)に対して、代金の支払いとして手形を交付することは、できなくなった。

電子記録債権や一括決済方式であっても、支払期日までに満額の金銭と引き換えることが困難なものは、同じく禁止されている。

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項目 取適法(2026年1月1日施行)の内容 資金繰りへの影響
手形の交付 禁止(支払手段としての手形の交付ができない) 手形をもらう機会そのものが減る
電子記録債権・一括決済 支払期日までに満額の金銭と引き換えることが困難なものは禁止 「実質的に手形と同じ」ものも封じられる
支払期日 受領日から60日以内 サイトが短縮される方向
価格協議 協議に応じない一方的な代金決定の禁止 価格転嫁がしやすくなる方向
適用対象 資本金基準に加え、従業員基準(300人/100人)を追加。製造等の目的物の引渡しに必要な「運送の委託」を新たに対象化 対象となる取引が広がる
名称変更 親事業者 → 委託事業者/下請事業者 → 中小受託事業者
罰則 勧告・指導のほか、50万円以下の罰金
※出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)リーフレット」。適用対象・要件の詳細は、必ず公正取引委員会の公表資料をご確認ください。

この法律の意味は、非常に大きい。

「手形を割り引いて資金を作る」というやり方そのものが、制度的に消えていく。

なぜか。

手形をもらえなくなるからだ。

割引の対象がなければ、割引という手段は成り立たない。

これは、中小企業にとって基本的には良いことだ。

長いサイトの手形を押しつけられ、それを割り引いて資金繰りをつないできた——

その構造自体が、問題だったからだ。

建設業では、この構造が特に強く残っている。

建設業の資金繰り(出来高払い・注文書ファクタリング・経審への影響)で、取適法2026の影響を含めて整理している。

03手形割引とは何か(仕組みを分解する)

制度が消える前に、仕組みを正確に理解しておく。

これは、無駄な知識ではない。

手形割引の構造を理解すると、ファクタリングの手数料がなぜ高いのかが、一発で分かるからだ。

手形割引とは、こういうものだ。

満期日がまだ来ていない手形を、金融機関や手形割引業者に譲渡し、満期までの利息相当額(割引料)を差し引いた金額を受け取る。

法的には、手形の裏書譲渡だ。

そして、ここが重要だが——

実務上・会計上は、「手形を担保にした短期の融資」に近い性質を持つ。

なぜなら、償還請求権があるからだ。

手形割引の仕組みを3者の関係で示した図 手形割引の仕組み ── 3者が登場する

振出人 (取引先・元請)

自社 (手形を受け取る側)

銀行・割引業者 (割り引く側)

①手形

②裏書譲渡

③額面−割引料

満期日に、手形が無事に決済されたとき 振出人の口座から、銀行・割引業者へ額面が支払われる 自社には、何も起きない。これで取引は完了する

満期日に、手形が不渡りになったとき 銀行・割引業者は、振出人から回収できない → 自社に対して、額面全額の買戻しを請求する(償還請求権) = リスクは、最終的に自社に戻ってくる

図2:手形割引の仕組み。無事に決済されれば何も起きない。だが、不渡りになれば、買戻しの請求が自社に来る。

04割引料の相場と、計算のしかた

ここで、割引料の計算式を出す。

これが、この記事で最も重要な数式だ。

割引料 = 手形の額面× 割引率(年率)× 満期までの日数 ÷ 365

見てほしいのは、「年率」と「日数」だ。

割引料は、年率で提示され、実際の日数で按分される。

これが、ファクタリングとの決定的な違いだ。

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割引を行う相手 割引率の相場(年率) 審査の対象 スピード
銀行 概ね年2%台 融資と同様の審査(自社の信用力も見る) 数日〜
信用金庫・信用組合 概ね年2.5%〜4.5%程度 融資に準じる審査 数日〜
手形割引業者 概ね年2.5%〜15%程度 振出人(手形を出した側)の信用力が中心 即日〜数日
(参考)ファクタリング 買取手数料(年率ではなく、1回あたりの率) 売掛先の信用力が中心 最短30分〜数時間
※2026年7月時点の一般的な相場観です。実際の割引率は、振出人の信用力・手形の額面・満期までの期間・自社の財務状況により大きく異なります。正確な条件は各社にご確認ください。審査があります。手形割引業者のうち、貸金業の登録を受けているかどうかは金融庁「登録貸金業者情報検索サービス」で確認できます。

銀行と割引業者の違いを、一つだけ書く。

銀行は、自社の信用力も見る。

融資と同じ審査をするからだ。

割引枠を設定し、その枠のなかで割り引く。

だから、赤字だと断られることがある。

手形割引業者は、振出人の信用力を中心に見る。

「その手形は、ちゃんと決済されるか」

——これが主な関心だ。

なぜなら、不渡りにならなければ損をしないから。

そして、万一不渡りになっても、自社に買い戻させればいい。

二重に守られている。

だから、割引料は安く設定できる。

構造が、そうなっている。

05「1,000万で10万、100万で20万」の謎を解く

冒頭の疑問に、数字で答える。

1,000万円の手形を割り引いたら、費用が約10万円だった。

——これは、なぜか。

計算してみる。

額面1,000万円。割引率 年3.0%。満期まで120日。

1,000万円 × 3.0%× 120 ÷ 365= 約98,630円

約10万円だ。

数字が、ぴたりと合う。

では、ファクタリング側はどうか。

額面100万円。手数料20%。

100万円 × 20%= 200,000円

20万円だ。

計算方法が、そもそも違う。

手形割引の割引料とファクタリング手数料の計算方法の違い 計算式が違う ── だから、比べると驚く

手形割引 額面 × 年率 × 日数 ÷ 365 額面:10,000,000円 割引率:年3.0% 満期まで:120日 約 98,630円

ファクタリング 額面 × 手数料率(1回あたり) 額面:1,000,000円 手数料:20% 期間の按分:なし 200,000円

同じ物差しに乗せると ── 額面100万円・30日で比べたら 手形割引(年3.0%):約2,466円 / ファクタリング(手数料20%):200,000円

この差は、リスクを誰が負っているかの差である 手形割引:不渡りなら自社が買い戻す/ファクタリング:売掛先が倒れても請求されない

図3:割引料は「年率×日数」で計算され、ファクタリング手数料は「1回あたりの率」。同じ条件に揃えると、差の大きさがはっきり見える。

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条件を揃えて比較 手形割引
(年3.0%)
手形割引
(年10.0%)
ファクタリング
(手数料5%)
ファクタリング
(手数料20%)
額面100万円・30日 約 2,466円 約 8,219円 50,000円 200,000円
額面100万円・60日 約 4,932円 約 16,438円 50,000円 200,000円
額面100万円・120日 約 9,863円 約 32,877円 50,000円 200,000円
額面1,000万円・120日 約 98,630円 約 328,767円 500,000円 2,000,000円
不渡り・未回収のリスク 自社が負う(買戻し義務) 自社が負う(買戻し義務) 業者が負う(ノンリコースの場合) 業者が負う(ノンリコースの場合)
※割引料は「額面×年率×日数÷365」の単利概算。ファクタリング手数料は額面に対する率で、期間による按分はありません。実際の割引率・手数料は、振出人・売掛先の信用力等により変動し、審査があります。ファクタリングの手数料は金利ではなく、債権売買の対価です。「償還請求権のない契約の場合」という留保が付くことに注意してください。
■ この表の、いちばん下の行を見てください

上の4行だけを見ると、「手形割引のほうが圧倒的に安い」という結論になります。
ですが、いちばん下の行が、すべてをひっくり返します。
手形割引では、不渡りになったときの損失を、自社が引き受けます。額面全額の買戻し義務を負うのです。
ファクタリング(償還請求権のない契約)では、売掛先が倒れても、自社に請求は来ません。
つまり、コストの差は「保険料の差」なのです。安いほうは、保険がついていない。
支払サイト別・手数料率別の年率換算はファクタリング手数料の相場と実質年率換算表でマトリクスにしています。同じ物差しで比べてください。

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手形割引には、不渡り時の買戻し義務(償還請求権)があります。ファクタリングは、償還請求権なし(ノンリコース)の契約であれば、売掛先が支払わなかった場合でも、利用者に請求は行われません。株式会社No.1は、このノンリコースを明記しています。買取手数料0.5%〜15%、買取可能額50万円〜3億円。最短30分での振込に対応、電子契約で全国対応。設立2016年1月7日/資本金8,000万円/代表 濵野邦彦/東京都豊島区東池袋1-18-1 Hareza Tower 20F。
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06償還請求権|手形割引とファクタリングの決定的な違い

ここが、この記事の核心だ。

償還請求権——手形の世界では遡求権とも呼ばれる。

意味は、こうだ。

「その手形(債権)が回収できなかったとき、譲渡した相手に請求できる権利」

手形割引には、これがある。

ファクタリング(ノンリコース契約)には、これがない。

この一点で、すべてが分かれる。

手形割引とファクタリングの償還請求権の有無を対比した図 回収できなかったとき、誰が損をするのか

手形割引 償還請求権 あり

振出人 不渡り (払えない)

銀行・業者

買戻し請求

自社 額面全額を払う

・すでに受け取った金は使った ・それでも額面全額を返す ・売上も入らない ・二重の打撃を受ける → 割引料が安いのは、この代償

ファクタリング 償還請求権 なし(ノンリコース)

売掛先 倒産 (払えない)

買取業者

請求は、来ない

自社 支払義務なし

・受け取った金は、そのまま ・買戻しの請求は来ない ・未回収リスクは業者が負う ・ただし、契約書の確認が必須 → 手数料が高いのは、この保険料

図4:償還請求権の有無。手形割引は不渡りのリスクが自社に戻る。ファクタリング(ノンリコース)は業者が負う。この差が、コストの差を生む。

● 「ノンリコース」と書いてあっても、契約書を読んでください

金融庁は、ファクタリングを装いながら実質的に貸付けにあたる契約について、注意喚起を行っています。危険信号として挙げられているのは、次のようなものです。

  • 買取代金が債権額に比べて著しく低額である
  • 回収が売主に委託され、回収できなければ売主が買い戻す契約になっている
  • 回収できなければ売主自身の資金で支払う契約になっている
  • 償還請求権(リコース)がある
  • 表明保証で、実質的に売主に保証させている(東京地裁 令和4年3月4日判決)
  • 公正証書を作らされる(東京高裁 令和3年7月1日判決)
  • 連帯保証人を求められる

「ノンリコース」と書いてあっても、別の条項で実質的に買戻しを強いる仕組みになっていることがあります。契約書のタイトルではなく、「リスクが誰に残っているか」を見てください。
出典:金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」

07不渡りが出たとき、何が起きるか

手形割引を使うなら、最悪のケースを知っておく必要がある。

不渡り。

振出人が、満期日に決済できなかった。

このとき、何が起きるか。

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時点 何が起きるか 自社への影響
満期日 振出人の口座に残高がなく、決済できない
不渡りの発生 手形が「不渡り」として処理される 割引した金融機関・業者から連絡が来る
買戻し請求 償還請求権(遡求権)に基づき、額面全額の買戻しを請求される すでに受け取った資金を使っていても、支払義務は生じる
売上の未回収 振出人からの入金は、当然、入らない 売上も失い、資金も出ていく(二重の打撃)
銀行取引への影響 割引枠が縮小・停止されることがある 今後の資金調達が難しくなる
自社が振出人だった場合
(参考)
6か月以内に2回の不渡りを出すと、銀行取引停止処分となる 当座勘定・貸出の取引が原則2年間停止。実質的に事業継続が困難になる
※手形制度・不渡り処分の運用は、電子交換所の規則等により定められています。上表は一般的な整理であり、個別の取扱いは金融機関・時期により異なる場合があります。

この表の4行目を、見てほしい。

「売上も失い、資金も出ていく」

これが、二重の打撃だ。

売掛先が倒れたのだから、売上は入らない。

それに加えて、割引で受け取った資金を返さなければならない。

1,000万円の手形が不渡りになったら、1,000万円を用意する。

すでに使った金を、どこから持ってくるのか。

ここで、資金繰りが壊れる。

これが、手形割引が「安い」ことの、本当の代償だ。

だから、手形割引を使うなら、振出人の信用力を自分でも見ておくこと。

「大手だから大丈夫」——

その大手が、支払いを遅らせている。

売掛金の回収難による倒産は、2026年上半期に32件。前年同期の14件から、128.6%の増加だ(帝国データバンク調べ)。

資金繰りが崩れる7つの原因は資金繰りが悪化する7つの原因(黒字なのに金がない構造)で分解している。

◆ 振出人の信用力を、自分でも見ておいてください

手形割引を使う側にとって、最大のリスクは「振出人が不渡りを出すこと」です。そして、そのリスクは自社に戻ってきます。
だから、割引業者に任せきりにせず、自分でも振出人を見ておく必要があります。

  • 支払いが、じわじわ遅れ始めていないか。1日、2日の遅れは、最初のサインです。
  • 支払サイトが、いつのまにか延びていないか。60日が90日になっていたら、相手の資金繰りが動いています。
  • 取引条件の変更を、一方的に言ってきていないか。
  • その振出人への売掛金が、自社の売上に占める割合は何%か。1社に集中しているなら、その1社が倒れたときに自社も倒れます。

「大手だから大丈夫」——その大手が、支払いを遅らせています。売掛金の回収難による倒産は、2026年上半期に32件。前年同期の14件から128.6%の増加です(帝国データバンク調べ)。

08でんさい(電子記録債権)割引の仕組み

紙の手形が消えても、でんさいは残る。

でんさいとは、株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)が運営する、電子記録債権の仕組みだ。

記録原簿への「電子記録」によって、債権の発生・譲渡・消滅が管理される。

紙は、一切ない。

そして、でんさいも、割り引ける。

満期日(支払期日)前に、金融機関に譲渡して、割引料を差し引いた金額を受け取る。

構造は、手形割引と同じだ。

そして——ここが重要だが——

でんさいの譲渡にも、原則として「電子記録保証」が伴う。

つまり、譲渡した側が保証人になる。

支払期日に支払われなければ、譲渡した側に請求が来る。

構造は、手形の遡求権と本質的に同じだ。

でんさい(電子記録債権)の発生・譲渡・保証の記録の仕組み でんさいは「記録」で動く

でんさいネット(記録機関)の記録原簿 株式会社全銀電子債権ネットワークが運営

① 発生記録 債務者が請求し、 でんさいが生まれる

② 譲渡記録 金融機関へ譲渡し、 割引を受ける

③ 電子記録保証 譲渡した側が 保証人になる

支払期日に、債務者が支払えなかったら 保証記録に基づき、譲渡した側(自社)に請求が来る

つまり、紙が電子になっても「遡って請求される」構造は残る ファクタリング(ノンリコース)とは、ここが決定的に違う

図5:でんさいは「記録」で動く。譲渡記録には原則として電子記録保証が伴い、譲渡人が保証人になる。手形の遡求権と、本質的に同じ構造。

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項目 紙の約束手形 でんさい(電子記録債権)
形態 紙(現物) 電子的な記録
紛失・盗難 リスクがある 現物がないため、リスクがない
印紙税 必要(額面に応じて) 不要
分割 できない(額面全額を一括で扱う) できる(必要な額だけ譲渡・割引できる)
郵送・保管 必要(郵送費・保管の手間) 不要
取立の手間 銀行に持ち込む必要がある 支払期日に自動的に決済される
遡って請求される構造 あり(遡求権) あり(電子記録保証)
2027年3月末以降 交換枚数ゼロが目標=実質的に使えなくなる 継続する
※でんさいの仕組み・利用条件は、取引金融機関により異なります。詳細は株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)および取引金融機関にご確認ください。電子記録保証の要否・内容は、契約・記録の内容によります。
◆ でんさいの「分割できる」は、実務でかなり効きます

紙の手形は、額面1,000万円なら1,000万円まるごとを扱うしかありませんでした。300万円だけ資金化する、ということはできません。
でんさいは、分割して譲渡できます。1,000万円のうち、300万円分だけを割り引く——これができます。
これは、必要な分だけ割り引けば、割引料も必要な分だけで済むということです。
紙の時代には、「300万円しか要らないのに、1,000万円分の割引料を払う」という無駄が発生していました。この点だけは、電子化のはっきりした利点です。

09「割引」と「譲渡」は、どう違うのか

用語を整理しておく。

「割引」と「譲渡」は、似ているが、違う。

譲渡とは、債権を他人に移すこと。その行為そのものだ。

割引とは、満期前の債権を、満期までの利息相当額を差し引いた金額で譲渡することを指す。

つまり、割引は譲渡の一形態だが、「時間の対価を引く」という性質を持つ。

そして——

でんさいの世界では、支払いのためにそのまま譲渡することもできる。

仕入先への支払いに、受け取ったでんさいをそのまま回す。

これができる。

この場合、割引料はかからない。

現金化はしないが、支払いには使える。

資金繰り上、これは強力だ。

「現金が要る」のか、「支払いができればいい」のか。

この区別を先につけると、無駄な割引料を払わずに済むことがある。

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手段 何をするか コスト 使いどころ
割引 満期前に、金融機関へ譲渡して現金化する 割引料(年率×日数) 現金が必要なとき
譲渡(支払いに回す) 受け取ったでんさいを、そのまま仕入先への支払いに使う 原則としてコストなし 支払いさえできればよいとき
満期まで保有 何もせず、支払期日を待つ なし 資金に余裕があるとき
ファクタリング 売掛債権そのものを売却する 買取手数料(1回あたりの率) 手形・でんさいではない、通常の売掛金があるとき
※でんさいを支払いに回せるかどうかは、支払先がでんさいネットを利用しているか等の条件によります。取引金融機関にご確認ください。ファクタリングは債権譲渡(民法466条)であり貸付けではありません。

102027年4月以降、どう資金を回すか

紙の手形が消える。

では、そのあとどうするのか。

選択肢を、判断の順に並べる。

手形廃止後の資金化手段を選ぶためのフローチャート 手形が消えたあと、どう資金化するか

売掛金を、早く現金にしたい

まず:支払サイトの短縮を交渉する

取適法:受領日から60日以内

次:でんさいを受け取れないか相談

でんさいがある ・支払いに回せば、コストゼロ ・現金が要るなら、でんさい割引

通常の売掛金しかない ・銀行融資/ビジネスローン ・ファクタリング(ノンリコース)

コストゼロの手段(サイト交渉・でんさいの支払利用)を先に潰す

図6:手形廃止後の判断フロー。まず「コストゼロでできること」を検討し、それでも現金が必要なときに、有償の手段へ進む。

■ 2027年4月に向けて、今からやっておくこと
  • 手形を受け取っている取引先に、支払方法の変更を確認する。「今後、でんさいになるのか、振込になるのか」を聞いておく。
  • でんさいを使うなら、取引金融機関に利用の申込みをする。手続きに時間がかかることがあります。
  • 手形割引の枠を持っているなら、その枠が今後どうなるかを、銀行に確認する。枠がなくなれば、その分の資金調達手段が失われます。
  • 取適法により、支払期日は受領日から60日以内。これを超える条件を提示されているなら、まず交渉してください。
  • 資金調達手段のポートフォリオを組み直す。「手形割引がなくなったら、何で埋めるのか」を、今のうちに決めておく。全体像は事業資金の調達方法12種類で整理しています。
  • ビジネスローンという選択肢の基本はビジネスローンとは(銀行融資・日本政策金融公庫との違いを金利で比較)で確認してください。

最後に、一つだけ。

手形割引が使えなくなることは、中小企業にとって「悪いこと」ではない。

むしろ、逆だ。

長いサイトの手形を押しつけられ、それを割り引いて資金繰りをつなぐ——

この構造から、解放されるということだ。

取適法は、支払期日を受領日から60日以内と定めた。

これは、資金繰りにとってはっきりとした改善だ。

問題は、移行期をどう乗り切るかだ。

そのために、今から準備してほしい。

ファクタリング会社を選ぶときのチェック項目はファクタリング会社の選び方|悪質業者を見抜く15のチェックリストにまとめている。

そして、ファクタリングとビジネスローンのコスト比較はファクタリングとビジネスローンの違い(同じ100万円でコストは10倍変わる)で同一条件比較をしている。

数字を見てから、選んでほしい。

法人の売掛債権を、2社間・3社間の両方で検討する|株式会社エーストラスト
手形割引が使えなくなったあと、通常の売掛債権をどう資金化するか。3社間と2社間を比較検討したい法人向けの選択肢です。株式会社エーストラストは、3社間 手数料1.0〜4.9%/2社間 手数料5〜15%と公表しています(同社の条件表による)。買取可能額は〜5,000万円(審査により1億円)。最短2時間での送金に対応。運営:株式会社エーストラスト/東京都港区西新橋2-6-1/代表 大橋邦男。
3社間 1.0〜4.9%2社間 5〜15%最短2時間送金〜5,000万円法人のみ

審査書類を提出して条件を確認する

※手数料・スピードは2026年7月時点の同社公表値です。同社の表記には、画像と条件表で数値の揺れがあります(条件表の数値を採用しています)。実際の手数料は、債権額・支払サイト・売掛先の信用力により変動し、審査があります同社は、償還請求権の有無について明記していません。契約前に必ず契約書で確認してください。「審査通過率90%以上」は同社の公表値であり、第三者による検証は行われていません。3社間ファクタリングでは、売掛先への通知・承諾が必要になります。ファクタリングは債権譲渡(民法466条)であり、貸付けではありません。

FAQよくある質問

紙の約束手形は、いつまで使えますか。
全国銀行協会は、2026年度末(2027年3月末)までに、電子交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを目標に取り組んでいます。2026年7月時点では、まだ「廃止済み」ではなく、移行の最終局面という段階です。ただし、実務上は、銀行で取り立てられない手形は手形として機能しません。さらに、2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法)により、委託事業者が中小受託事業者に手形を交付することは禁止されています。つまり、手形を受け取る機会そのものが減っていきます。最新の状況は、全国銀行協会および取引金融機関にご確認ください。
手形割引とファクタリングは、何が違うのですか。
最も大きな違いは、償還請求権(遡求権)の有無です。手形割引では、手形が不渡りになった場合、割引を受けた側に額面全額の買戻し義務が生じます。つまり、未回収のリスクは自社に戻ってきます。一方、ファクタリングのうち償還請求権のない契約(ノンリコース)では、売掛先が支払わなかった場合でも、利用者に請求は行われません。リスクは買取業者が負います。また、計算方法も違います。割引料は「額面×年率×日数÷365」で計算され、期間で按分されます。ファクタリングの手数料は「額面×手数料率」で、1回あたりの率です。コストの差は、この2点で説明できます。
1,000万円の手形割引で費用が10万円。ファクタリングは100万円で20万円。なぜこんなに違うのですか。
計算方法とリスク負担が違うからです。手形割引の割引料は年率で計算され、満期までの日数で按分されます。額面1,000万円、割引率年3.0%、満期まで120日なら、1,000万円×3.0%×120÷365=約98,630円。ほぼ10万円です。一方、ファクタリングの手数料は1回あたりの率で、期間による按分はありません。額面100万円、手数料20%なら、そのまま20万円です。そして本質的な差は、リスクの所在です。手形割引では不渡り時に自社が買い戻します。ファクタリング(ノンリコース)では、売掛先が倒れても自社に請求は来ません。コスト差は、いわば「保険料の差」です。
でんさい割引にも、買戻しのリスクはありますか。
あります。でんさい(電子記録債権)の譲渡には、原則として電子記録保証が伴います。つまり、譲渡した側が保証人になるということです。支払期日に債務者が支払わなかった場合、保証記録に基づいて、譲渡した側に請求が来ます。紙の手形における遡求権と、本質的に同じ構造です。「電子になったからリスクがなくなった」わけではありません。でんさいの利点は、分割譲渡ができること、印紙税が不要なこと、紛失リスクがないこと、取立の手間がないことです。リスク構造は変わりません。詳細は取引金融機関にご確認ください。
でんさいを、割り引かずに使う方法はありますか。
あります。受け取ったでんさいを、そのまま仕入先などへの支払いに回すことができます(譲渡)。この場合、割引料はかかりません。「現金が必要なのか、支払いさえできればよいのか」——この区別をつけると、無駄な割引料を払わずに済むことがあります。また、でんさいは分割して譲渡できるため、「1,000万円のうち300万円分だけを割り引く」ということも可能です。紙の手形ではできなかったことです。ただし、支払先がでんさいネットを利用している必要があるなどの条件があります。取引金融機関にご確認ください。
2027年4月以降、手形割引の代わりに何を使えばよいですか。
順番に検討してください。第一に、支払サイトそのものを短縮できないか、取引先と交渉すること。取適法により、支払期日は受領日から60日以内と定められています。第二に、でんさいを受け取れないか相談すること。でんさいなら、支払いにそのまま回せばコストはかかりません。第三に、それでも現金が必要なら、銀行融資・ビジネスローン・ファクタリングを検討します。コストの安い順に検討するのが原則です。なお、手形割引の枠を持っている場合、その枠が今後どうなるかを銀行に確認しておいてください。枠がなくなれば、その分の調達手段が失われます。

まとめ

紙の約束手形は、2027年3月末で消える。

残り、約8か月。

そして、すでに取適法(2026年1月施行)で、手形の交付は禁止された。

手形割引という手段は、制度として退場していく。

——だが、その前に理解してほしい。

なぜ、手形割引は安く、ファクタリングは高いのか。

理由は2つ。

一つは、計算方法。

割引料は年率×日数。手数料は1回あたりの率。

もう一つは、リスクの所在だ。

手形割引には償還請求権がある。

不渡りになれば、額面全額を買い戻す。

売上も失い、資金も出ていく。

ファクタリング(ノンリコース)には、それがない。

売掛先が倒れても、請求は来ない。

安いのには、理由がある。高いのにも、理由がある。

コストとは、リスクの値段だ。

——手形が消えることは、中小企業にとって、基本的に良いことだ。

長いサイトを押しつけられ、それを割り引いてつないできた構造から、解放される。

問題は、移行期をどう越えるかだ。

今から、準備してほしい。

出典・参考
全国銀行協会「紙の手形・小切手利用廃止へ」
株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)
公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)リーフレット」
金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」
金融庁「登録貸金業者情報検索サービス」
e-Gov 法令検索「貸金業法」
中小企業庁
・裁判例:東京高裁 令和3年7月1日判決/東京地裁 令和4年3月4日判決

相談窓口
金融庁 金融サービス利用者相談室:0570-016811/日本貸金業協会 貸金業相談・紛争解決センター:0570-051051/警察相談専用電話:#9110

監修:黒岩 智之(くろいわ ともゆき)
事業再生コンサルタント/中小企業の資金調達支援18年。地方銀行の融資審査部に9年在籍後、独立。これまで1,200社超の資金繰り相談に対応。建設・運送・医療介護分野の資金調達を専門とする。

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